魔術師の素性




「では話を戻すが…、ここで一つ聞こう。話の中に魔法使いの盲点があったのに…楓香、お前は気付けたか?」
「は?何が?」


ここでまさか質問されるとは思ってなかった楓香は、間髪入れずに聞き返す。
珠代の出現で油断していたせいか、短期間で話の概要が頭の片隅に追いやられていることに自分でもびっくりしつつ、
質問の意味するところがさっぱりわからないので、王子に続きを促す。
オムライスのおかげで上機嫌な王子は、楓香のなげやりな反応にも嫌な顔もせず、話を続ける。



「魔法使いはあくまでも、密偵として秘密裏に父に面会していた、と言ったろう。
そして魔法使いが父に面会していることを知っていたのは、その密会の場に居合わせた数少ない家臣や騎士たちだけなんだ。
それらは全て、牢獄に投獄されている。
…となると、残りの何も知らずに父の命令を聞いている家来たちは、その命令をどう思うと思う?」



また質問。
聞かれた楓香は眉をよせ、暫し考える。


「……そりゃあ、不振がるだろ」
「そうだ。実際、"俺の命令を聞くな"という命令を受けて、従いはするものの、理由がわからないと困惑している者が大多数だった。中には何故仲間が捕まっているのかわからないと、俺に聞いてくる奴が出てくる始末だ。
しかもその捕まっている中に、王の妃である母がいて、俺の命令を無視しろなんて言われた挙げ句に王子も投獄。
…さすがに何かあったんじゃないかと疑う奴も出てくるだろうな」


その困惑が従者として騎士として、正しいものであるかは言及しないが、と呟く王子。


「おい、まさかその疑い出した兵士たちがお前を牢屋から出したとか言うんじゃねぇだろうな」
「なかなかするどいな。まぁ…詳しく言うと違うんだが、協力して助け出してくれたことには変わりない」


何故かちょっとばかし自慢げに話す王子に楓香は呆気に取られる。
そんな楓香の様子には気付かず、彼はそのまま口を開く。



「俺には魔女以外にももう一人、幼なじみがいる。」
「…………?」
「ソイツがまた器用でな。城の使用人なんだが、こっそり牢屋の鍵のスペアを作って俺のところにやってきたんだ」


その国は大丈夫なのか。
ちょっとばかし本気で心配してしまう楓香である。

「スペアってそんな簡単に…」
「もちろん簡単に作ることは無理だ。何せスペアを作るための型は本物からとらなくてはいけないからな。
…とは言っても、鍵は看守室の一角に保管してあるだけだから、城内部の人間なら看守が一斉に呼び出されたりしたタイミングを見計らって忍び込んで型だけとってくれば、あとは然程危険なことはない」
「………………、」
「…わかってる。そのうちそこら辺の警備も対策の手を打たなければいけないだろう」


楓香が呆然と聞いているのを、王子は城の警備体制の不備に呆れているととったらしい。
楓香の訝しむ(様に見える)視線で王子は神妙そうに頷き、僅かに反省の色を見せた。
…だがしかし、楓香は別にそんなことを思って王子を見ていた訳ではなかった。
呆然と話を聞いていたのは、何時もは常識がなくて何もかもが分からない感じで、馬鹿で阿呆でどうしようもないような目の前の王子が、自分の世界の話を始めた途端、何が起きて何がまずくて、何をどうしなければならなくてそのために何をすべきかを一通り考えているということがわかったからだ。
今までは決して見なかった一面。
普通にこちらで生活していたならば見れなかっただろう一面。
すなわち、
この目の前の王子が、事実異世界の王子であるということを改めて認識した楓香なのである。
王子はただの馬鹿じゃない。
王子は常識がない訳じゃない。
常識が常識でないからわからないだけ。
自分の常識、知識が追い付く範囲内であれば、この王子はきっと楓香よりも断然頭がいいハズだ。
王子とは、生きる場所が違う。
そんなことを、証明されたような気分になっていただけなのである。



「まぁ、そんな感じで投獄された俺はしばしば鍵を使って脱獄を繰り返しては何事もなかったかのように牢屋で捕まったフリを繰り返していた訳だ。
看守の内数名が俺の味方で、そいつらが見回りの時だけ脱獄していたから普通だったら出来ない脱獄ができた訳だ」
「……………………、」
「………要約すると、」
「わかったわかったせんでもいい、お前ンとこの警備体制が比較的優秀だってことは理解してるから安心しろ」


あくまでも城の家来看守が無能な訳ではないと主張しようとする王子に、楓香は軽くため息をついて。
そこまで異国の城内体制に興味のないのが申し訳ないなと思いつつ、
まるで自分の城のやつらは凄いんだぞ、なんて自慢する子どもの様だと思った。



「…そんな訳で、看守には気付かせず、それを知っていたのは数人の看守と牢屋で捕まっている人間、鍵のスペアを作ってきた使用人のみの状況だ」
「…ンで、お前は牢屋から出て具体的に何してたンだ?」
「主に魔術師の情報収集だな。魔女の一族の区域に行っては一族の魔術師情報を徹底的に洗っていた。
…そうして数日、ある日トンでもない事実が判明してな」
「トンでもない事実、?」


こくりと、神妙そうに頷く王子。
対し、大体予想のつく楓香である。
こちらの世界のRPGによくあるパターンだ。


「その魔術師は、魔女の一族とは違う一族の魔術師だったんだ」





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