王様の暴走




「まぁそんなわけで、父は魔法使いに操られ、騎士や召使い達が投獄され、おまけにそれを止めようとした母も投獄され、魔女が追放されることが決まった。
魔法使いとしては順調なこと運びだったんだろうな。…魔法使いの思惑通り、ことを運ぶうえで恐らく一番邪魔になる俺が、すべて終えた後に帰ってきたんだから」



自分が一番邪魔になる、とは。
思わず眉を寄せた楓香に気付いて、王子は自分の立ち位置を説明する。


「魔女は俺の専属魔術師。
追放されるとなると真っ先に反発するのは俺だし、追放の理由たる火薬だってその用途を知ってる。
何より王族の血をひいていて男だ。父に進言する程度の権利はあるし、もっと言えば、俺の一存で魔法使いを閉め出すことも可能だっただろう」
「お前の母さんは?」
「母はまぁ、計画も知っていたし家臣への命令権もなくはないが…あくまでも女だからな。
父が母に命令出来ても、母が父に命令する権利はほぼ無いに等しいってところか。父の"王"という権力が圧倒的過ぎるんだろうな」


男女格差は何処の世界でも同じか、と。
亭主関白を思い浮かべる楓香はひそかに苦い表情を浮かべて。
しかしそこでハタと気付く。


「……ちょっと待てよ、どっちにしろお前が帰ってくるのは魔法使い的によくないことじゃね?」
「…何故?」
「何故ってお前…、」


きょとりとする王子に、楓香はちょっと拍子抜けする。
今、目の前の王子は、自分ならば王に進言する権利があると言ったじゃないか。
そして家来に命令をすることも出来ると言った。
ならば、


「王様説得して追放取り消すとかさ。牢獄見張ってる奴とかに命令して牢屋に入れられてる人たち助けるとかさ。
お前なら出来る立場にいるんだろ?」


しかし王子は首を横に振る。


「無理だ、った」
「…は?」


その言葉が過去形なのは、楓香が言ったのと同じことを、王子が実践していたからに他ならない。


「無理だったんだ、俺もやってみたが…。
……父に進言する程度の権利がある、ということはあくまでも、俺が一人の人間として、"王"という目上の人間に対して言を奨めることが許されている、ということを意味する。
俺の権限よりも父の方が上。その父が魔法使いに操られてるんだ。俺が何を命令しようが、魔法使いが父を通して"王子の命令を聞くな"とでも命じればその時点で、俺の命令は効力をなくす。…アウトだ」


所詮、王子なんていってもそんなものだ。
そう呟いて、王子は目を伏せる。





「そして俺も、終いには投獄された」






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