とある魔法使い




「…その時俺は用事で出ていてその場にいなかったから…、ここから先の話は使用人から聞いた話になる。
魔法使いはこう言った。」

『私は本日、王様に密告をするためにやって参りました。
王様の身を案じましては居ても立ってもいられず馳せ参じた次第で御座います』

「その場には魔法使い、父の他に数人の家臣と騎士、使用人ほどしかいなかった。
父の身を案ずる、という魔法使いの言葉に過剰反応した家臣が続きを促すと魔法使いはこう続ける」

『恐れながら申し上げます、私めを貴方様の専属魔術師にして頂きたいのです。
そして、速やかにご子息の専属魔術師である魔女を解任して頂きたい。
我が一族の中に国家転覆を企む輩がいるとの予言を授かって参りました。城に魔術で攻撃を仕掛けるならば対抗の術はありましょうが、城の内部に仲間を手引きされては敵いません。
輩の特定は困難を極め、未だ人物や人数などの特定には至っていません故に、専属魔術師が犯人であるという確たる証拠は御座いませんが、用心するに越したことはないかと存じます』


「魔法使いの言葉を聞いて、父は暫し考えた後にこう言う」


『仮にお前の話が真だとして、我が専属魔術師にするのには異論ない。
…だがしかし、それに至るまでの確証がないのだろう。安易に乗る気にはなれん。
我には前専属魔術師の息子が控えておるし、初対面のお前よりはその者の方が信頼も出来る。
それに、我が息子の専属魔術師を解任するというのも多分に解せぬところがあるな』


「………当然、困惑が広がっただろう。父の身を案じる家臣は当然魔法使いの助言には従うべきだと考える一方で、当の本人が納得をしない。…うろたえる一同に、魔法使いは更に続ける」


『可能性の話をしているので御座います。
確かに先代魔術師のご子息の方が王様にとっては私より信頼できましょう。…しかし完全に転覆計画の犯人ではないと言い切れますでしょうか?
それに魔女の件で御座いますが、例えば仮にご子息に遣える魔女が潔白だと致しましても、攻め入られた場合にはたして彼女はご子息を守り抜くことが出来るので御座いましょうか。敵側に寝返ったら、敵わぬと判断して逃げたら…。
女性に王家の方の護衛をさせるのは如何なものかと存じます。王様さえ宜しければ、私の信頼する者の中からご子息の護衛を命ずることもできるので御座いますが』


ここら辺の話は断片的にしか聞いていないから少し飛ばすぞ、と、王子は軽く断りを入れて。


「…………結局、その場で結論は出ず、父と俺の専属魔術師の話は保留となった」
「……ちょっといいか?」
「なんだ」
「ご子息ってお前のことでいいんだよな?」
「当たり前だろう」
「…………いやまてよくわからん、つまりの話でここまでをまとめろ」
「…………………、」
「…オイ、なんだその目は」


早くも脳内でお話がこんがらがって大変なことになりつつある楓香である。
今の話に出てきたのは王様と魔法使いと騎士と召使いと家臣と…、あれ、家臣と召使いって何が違うんだ?なんて、徐々に脱線しつつある。
放っておくともっと酷いことになりそうなので、手っ取り早くまとめてもらわねばと要約を申し出た先。
なんとも言えない表情で何か言いたそうにしていた王子がぼそりと口を開いた。


「……俺はてっきり、お前はもう少し頭が回るものだと思っていた。こんな簡単な話も理解出来ないのか」
「うるせェよ。現実的な話なら理解出来るンだよ。非現実的な話されッと理解出来ねーンだよ。いいから早くまとめろ」


有無を言わさず続きを促す楓香に、王子は呆れたように要約してやる。


「……つまり、父に密告してきた魔法使いが、城内部の魔法使いを自分の仲間で固めようと話を持ちかけているってことだ」
「………………嗚呼、なるほど。」


頭の中にストンと落ちてきた説明文。
今までのややこしい回想を短時間で要約するなんて、もしやこの王子はそこそこに頭の良い奴なんじゃなかろうか。
なんて。
先の思いやられる現実逃避を始める楓香。
リアリティーのない話は想像するのが難しい。
現実主義者楓香にとっては、ちょびっと頭を使うお話。






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