遡りましょう。


「じゃあまず情報を洗うぞ。王子、ここに至ったまでの経緯を事細かに説明しろ」
「ふむ、いいだろう。」


ことりとコップを机に置いて。
王子は記憶を探るように目を閉じる。



「我が王国の名はヴェルキーシュ王国。
近隣の諸王国の中ではそこそこに大きく治安もそれなりに良いと思ってる。経済の巡りも安定しているし、我が父ルクシール王の性格も反映してか何より国民の人柄が良い。唯一の難点は地形が悪いせいで他国との物流に難があったことくらい。
…平和な日々を過ごしていた」


ぽつりぽつり、
こぼれる言葉は懐かしむよう。


「我が王国には魔女がいた。…もっとも、魔女というくくりではなく…魔術師、と云うべきか。男女共に怪しげな魔術を操る一族がいた。その一族は代々王家に遣え、占いや魔払い、その他王家のためにと魔術を用いてきた。
当然我が父の代でもそれは受け継がれ、幼い頃より友好を深めてきた一族の長が、今の王に遣え呪術的儀式を行っていた。
……俺にも将来の吉兆予言や魔払い等のお役目をせんと遣える魔女が一人いた。従者ではなく、友人としての認識が俺には強かったがな。」


王様、王子、魔女、魔術、儀式、聞きなれない単語は全て、単語を耳にしたことはあっても、実際目にしたことがないものばかり。
聞かされるそれは現実離れし過ぎていて、まるでおとぎ話の序盤のよう。
魔術師からなる一族がいること前提で語られる過去、事実。
起承転結で綴られる物語の、冒頭を聞かされているようだった。
昔々或る所に、物語の主人公となる人間がいて、どういう生活をしていて、どんな日々を過ごしていたのか。
大抵は平和な日々から始まるもの、だが。


しかし、
物語には転機がある。

幸せな日々から一転して物語を展開する、激動の一文が。



「ある日、父に遣えていた魔法使いが亡くなった」


そこから物語は、違う顔を見せ始めるのだ。


「父は嘆き悲しみ、その魔法使いの葬儀を行った。盛大にではなくひっそりとと願った魔法使いの希望に沿って。
そして父は自分の吉兆を予言する新たな魔術師を一族の中から選ぶことにした。…本来なら亡くなった魔法使いの息子を後釜に据えるべきだし、俺たちも…父もそうする予定だった。
しかし、亡くなった魔法使いの葬儀の翌日、極秘裏にととある魔法使いが父に謁見を申し出たのだ。拒む理由もなし、父は何のためらいもなく承諾した。
………それが、マズかった」
「マズかった…?」


カラン、
グラスの中の氷がバランスを崩して音をたてる。



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