カミサマの試練
「これが"しょっぴんぐもーる"というものか。…なんかでかいな、想像より」
「そうな。でかいから人が沢山いる。
もう一度言うぞ、お前アタシから離れンなよ面倒だから、あとできる限り黙ってろ」
駐車券よし、ライトよし、鍵かけよし、車体はちょっと曲がっているがまぁよしとしよう。
目的地につくなり辺りを見回してちょこまか動き回る王子の服の裾をがっしり掴んで、楓香は立体駐車場の階段をもくもくと下りる。
後ろの王子が輝いているのは全力で無視だ。
ショッピングモールの中は王子の興味を引くものが沢山。
何度も何度も繰り返し言い聞かせる言葉にも、好奇心が勝る王子は聞く耳を持たない。
どうやら楓香はカミサマに、
そこかしこに目移りして指を指そうとする王子に、いかに先手を打てるかを試されているらしい。
そうか、そういうことなのか。
だったらうけてたとうじゃないか。
見据える先は入り口。
ウィーンと、勝手に開く自動ドア。
「楓香ッ」
「自動ドア、人が来たのを感知して動く」
段差が巡るエスカレーター。
「ふう、」
「エスカレーター、電気で回ってる」
おちびがねだる、自動販売機。
「ふ、」
「自販機、金入れると主に飲み物がでてくる。今は必要ねェ」
自販機の奥、上下に動くエレベーター。
「っ」
「エレベーターだな、ありゃ一気に他の階に行ける箱だ」
質問は寄せ付けず、王子の視線をたどって的確に説明する楓香。
ここまでしたらちょっとやりすぎだろうか。
大人しくなった小さいお子さまに気になった楓香が視線を向けると、隣の王子は若干悄気ているように見え、…るようなことはなかった。
むしろあっちのアレやらこっちのアレやらに目を奪われて輝き始めちゃったりしてるんだがどうしてくれよう。
しかも、
目を向ければ楓香がすぐさま説明をくれると思っているもよう。
…………嗚呼。
「オィ楓香アレは何だ!水滴が上に上がっていk」
「わかったわかった、お前が澄みきったハートを持ってンのはよォくわかった。
アレは光の関係でそう見せてるだけで実際の水はちゃんと重力に従って落ちてる。
ハイ説明終わりちょっと黙ってろ」
むすっとむすくれた王子をエスカレーターに引っ張って乗せて。
再び輝き始めた王子にしつこく釘をさしながら。
楓香はなんとか適当な服屋に王子を引きずり込むことに成功した。
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