王子=ガラ悪い




蕎麦を食いながら楓香は思う。
これから自分は何を手伝えばいいのかと。


「オイ王子」
「何だ」


フォークをぐるぐる回して蕎麦を巻き取りめんつゆにじゃぽじゃぽ浸す王子というのも、…何というか可哀想だ。
今度ハシの使い方を教えてやった方がいいかなと考えつつ、楓香はびしっとハシの先を向ける。
良い子はやっちゃいけませんよ。


「お前アタシに手伝えッつったな。具体的な話、アタシは一体何をすりゃいいンだ?」


すると止まる王子のフォーク。



「…………うむ」








間。




「……要するにわからねぇンだな」
「そのようだ」


何がそのようだだ、と。
他人事か、とか思っても口には出さずにそのままごっくんする。
とりあえず手がかりなしにほつき歩いてみるしかないのかと暫し客観的に王子を見てみる楓香。
王子の今の服装はさっきもいった通り楓香のお古である。
ウィンドブレーカーというのは高校の時に使っていたものだが、何故かメンズで注文してあるので一応王子もはけなくはない。
上に着ているTシャツも高校の時のものだがこれもメンズ、外に出るにはパーカーか何かを着せてやればいいかと思いつつ、…ちゃんとした服を買ってやらねばと思う楓香。
上服はメンズであっても、下はさすがにレディースな楓香である。
まさか女の子の服を王子に着せてやるわけにはいくまい。


「と、いうことで服買いに行くぞ服」
「前後の繋がりがわからんが、」
「お前の服を買いにいく。買わにゃお前外出て魔女探せねぇぞ」
「この服では駄目なのか」
「お前は毎日それを着る気か」



服さえ何とかなればあとは一点を除きあまり問題ないはずだ。
王子の髪色は黒ベースに蒼。
それも光のあたり具合によって蒼が見え隠れする程度の色合いだから然したる問題はない。
目の色はカラーコンタクトということで誤魔化せる。
身長も低すぎるわけでも高すぎるわけでもない。
全身で考えたらわからないが、見える位置にタトゥーや何かが入っていたりするわけでもない。
外見上は問題ないハズだ、多分。
そしてそれを差し引いての問題は。


「ところで王子、お前その口調どうにかなんねぇのか」
「どの口調だ」
「その口調だ」
「……と、いうと?」
「その何処と無く古風な口調だよ、現代にそんなしゃべり方してる奴いねぇから。怪しいから」


そう、口調。
口を開かなければチャラそうな男ですみそうな王子であるが、口を開いた瞬間によくわからない変質者な王子である。
さすがにコレばかりは楓香がいじって直せる問題ではないので、直らないならどこにいくにも黙っていてもらうしかない。
しかし王子の努力次第でどうにかなるものならば、是非ともどうにかしてもらいたい。


「お前の国の人間はみんなそうしてしゃべンのか?」
「そのような訳がないであろう、このような話し方をするのは王族や貴族のみだ」
「つまり、お前は王族だから普通にはしゃべれない訳だな」
「何故そうなった。
王族や貴族が使うというのはあくまで式典や儀式の時のみ、…我とて公用語を日常的に使い続けるのは疲れる」
「……お前それ公用語だったのか」
「当たり前だ。日常的にこのような回りくどいしゃべり方をせねばならぬ意味がわからぬ」
「………じゃあ何でお前は式典でも何でもねぇのにその公用語とやらで話してンだよ」
「一般人とは公用語で話せと教え込まれたが故だ」
「…………………」


一般人、と言われればまぁ確かに間違いはない。
間違いはないが、何故だろうムカつく。
ちょっとばかし荒んだ目で王子を見つめてみたならば、機嫌を悪くしたらしい。
質問に答えてやったのに何だその態度は、とでも言いたげに眉を寄せている王子。


「………うん、色々言いたいことはあるが。
とりあえず王子、お前この世界では公用語なぞ使わなくていいから」


むしろ使うなと言外に訴えて。
突然のことに目をぱちくりさせている王子に、楓香はもう一度告げる。


「公用語は使わなくていい。
言っちゃ悪ィがここじゃお前は王子じゃないし、実は普通にしゃべれるンならわざわざ面倒なしゃべり方をする必要はない」


言葉で気疲れされても困るし、楓香としては古語っぽくしゃべりかけられるとムカつくのでできれば普通にしゃべってほしいし。
迷う王子に三度、今度はむしろお願いに近い形で諭すと、王子は暫しあれやこれやと考え出す。
楓香の言うことに一理あったのか、自分の中で葛藤する王子。
やがてふむ、なんて小さく呟いて。
仕方ないというように息を吐き出す程度のため息をつく。




「……ホントに良いンだな?」
「………………おぅ」

確認するような問いかけに、楓香は一瞬反応が遅れた。
王子の雰囲気がガラリと変わったのだ。
今までのどこか抜けていそうなマヌケ雰囲気から、僅かに凛々しい青年へと。


まぁ、じゃあこんな口調でいくから宜しく。

なんて口にする王子。
……なんかいきなりガラが悪い。


「オイ王子、その豹変の仕方は何だ」
「あんな風な立ち振舞いをしろと、城のばあやに教わった。…自分で考えても馬鹿八割増しだな」
「……今アタシの中のお前像が激しく揺らいだぞ」
「どう揺らいだのかは知らんが、王族のイメージだったら素の俺よりはあっちの方が近いぞ。一般人のイメージを揺らがせない様にわざわざ公用語使ってあんな風に見せてたンだからな。
第一、王族がこんなにガラ悪いと知ったら威厳が落ちかねない」


しれりと言って退ける王子。
対する楓香は唖然としたまま。
乾いた笑みを浮かべて何かを悟り、へぇそうかなんて空返事をする。
そして同時にスルースキルを発動させた楓香は、食べかけの蕎麦に手をつけた。
威厳が落ちかねないとか何とかいいながら、実際威圧感の増した王子に楓香はほうっとため息をヒトツ。







現実味が増して困るとは。


(斯くして、)
(異世界改めガラ悪王子を匿うことになった)
(酒飲みヘヴィースモーカー楓香である)


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