王子=和食定義



、ということで。
二次元レイヤー王子ことアラルド王子を匿うことになった、…というと語弊がありそうだが、居候させることになった楓香。
昨晩知り合ったばっかりの他人だが、住まわせてやると決めた以上は人並みの生活を保証してやらねばと意気込む。
一応、なるべく一般的な朝ごはんというものを食べさせてあげようというところから始まる楓香の奮闘劇なのだけど。



「………………朝メシ…ッて、具体的にどんなのが一般的なんだ…?やっぱ米…?」


…前途多難である。
日本の朝ごはんはその名の通り、まずご飯、それに加え味噌汁や魚などおかずがあれば成り立つモノ。
だが、楓香の家には今現在米がない。
味噌汁を作るための味噌もない。
おかず、…に、なりそうなものもない。
そもそも自炊をしない楓香の家に健全な一般家庭の食卓に並ぶような朝ごはんが揃うわけがないのだが…、しかし、楓香にはそれを差し引いても成し遂げなければならない理由があった。
それは、楓香の日常を逸脱した朝ごはん生活にあるのだけど。
自炊しない楓香が自炊というなんとも自虐的な選択肢にたどり着いてしまったのには一応ちゃんとした訳がある。
まず朝ごはんについて考えて一番始めに出てきた選択肢は、いつも楓香がやっているように、適当な店に入ってご飯にありつくという方法だった。
それなら楓香が作らなくてもちゃんとしたご飯が出てきてくれるから、仮にマズいと言われても責任転嫁し放題なワケ、だが。
この方法を以て楓香が連れ出そうとしているのは、マント着用蒼髪レイヤー王子である。
歩いているだけで周囲の視線を浴びること間違いなし、下手したらそんなのを連れている楓香までそっち系な人に見られる可能性が否めないというか。
道端で偶然出会ってしまったお巡りさんに可哀想な目で見られたり、あるいは諭されたりすることもするかもしれない。
即時却下である。
第二の選択肢として楓香が外に出て、お留守番をしている王子に食料を買ってきてやるという手も考えはしたのだが。
何せこの方法を使った場合におうちに残るのが、二次元からいらっしゃった世間知らず王子サマである。
部屋の中にあるそこかしこに興味を引かれて散らかされても困るし、パソコンとか大切なモノもお陀仏にされそうで怖い。
何より、楓香が出掛けている間に勝手に鍵を開けて出ていく可能性がある分気軽に放置して出かけられない。
それも、魔女を探さねばー…とか何とか言って自分の行動を正当化して、だ。
そうなった場合、間違いなく王子はご近所さんに目撃されるだろう。
そして万が一迷子にでもなった王子に心優しいご近所さんが声をかけて下さったとして、おうちを聞かれた王子の口から楓香の名前が出てきたが最後、
ご近所さんの中の楓香のイメージが変な方向で固まってしまう気がしてならない。
そして噂は瞬く間に広まっていく。
ご近所さんとは比較的良好関係を築き上げてきた楓香にとっては結構致命的な問題だ。
目撃されるなら一般洋服で。
それまでは部屋に軟禁でもしなければ、王子を二次元に返した後の楓香の生活に影響が出るかもしれない…。
これも即時却下である。
ならばとそこまで考えて、やはり王子を連れ出すのは洋服を買ってきてやってからだなと心に決めた楓香は、朝ごはんを作るという別の選択肢を確立し、今まさに朝ごはん問題に直面している訳である。
ということで、米の調達方法を模索している真っ最中だが、そもそも朝ごはんはご飯でなくてもいいのだと楓香は気付かない。
ご飯でなくともパンとかでいいのだけど。
むしろ洋風王子にはご飯よりもパンをだした方が良いような気がするのだけど。

楓香は、そんなことには気付かない。

一応部屋には菓子パンではあるがパンはおいてある、が、菓子パンはおやつという定義が成り立つ脳内、
それに加えてじゃぱにーず王子は城の跡取りで、ご飯は三食和食定義が定まっている楓香の脳内である。
パン(おやつ)を食べさせるという考えはない。
最終的には今日の朝ごはんは諦めて何かデリバリーするかとも考え始めた楓香。
むしろその方向で固まりつつある。
色々考えている楓香だが、その理由は単純明快、王子に一般的朝ごはんを食べさせられればいいだけなのである。
楓香的朝ごはんを王子様に振る舞うハメにならなければ、それでいいのだ。
ここでいう楓香的朝ごはんとは楓香が毎日とっている朝ごはんのこと。
楓香の脳内で構成されている王子の朝ごはん定義が、

王子の朝ごはん=和食

であるならば、楓香的朝ごはんの定義は、

楓香の朝ごはん=コーヒー

なのである。
楓香は朝ごはんを食べると気持ち悪くなる傾向があるせい、極力朝は少なくなるようにしている。
固形物を食べるとしたら、シリアルをコップ一杯とか、気が向いたらファーストフードを買ってくるとか。
そんな、栄養バランス何それ美味しいn状態な楓香の朝ごはんを、何度もいうが他人に振る舞うとすると或いは食事面での虐待になってしまいそうで怖かったりする。
……一応、王子らしいから。
王子らしいからこのヒトは。
そんなシリアルとかですませられるハズがないと楓香の頭でもわかる。
毎日さぞかし美味しいものを食べていたんだろう。
だがしかし、前述の通りそんな朝ごはんな楓香なので、何かいい感じに食べれるものが今現在おうちになかったりするのである。
何せ今朝方人並みの生活を保証してやらねばと決意したばかりであるので、仮にも匿ったその日に王子を餓死させるわけにはいかない。
そんなこんなで地味に困った楓香は、普段使わない頭をフル回転している最中であった。
当の王子本人は、これといって空腹を訴えているわけではないのだけど。


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