継続的末期週間


チュンチュンチュン、
チュンチュンチュン、

アサダヨーアサダヨー

チュンチュンチュン、
チュンチュンチュン、

アサダヨーアサdべしッヨー


小鳥のさえずり、を、模した携帯のアラームが鳴り響く室内。
べしッ、と痛そうな音が音源を直撃したような気がするが、残念ながら音源は目覚まし時計のようにてっぺんにスイッチがついていたりするわけではない携帯電話なので、叩いたところでチュンチュン音は止まらない。
それゆえ、止まることを知らない目覚ましアラームはうざったいほどに鳴り響く。
誰だこんな時間にセットしたのは。
苛立ちを感じながら、未だ布団から出る気配を見せない楓香は携帯に手を伸ばした。
アラームを止めたついで時刻を確認してみれば、何ということだろう、まだ9時半である。



「……マジ誰だこんな朝早くにアラームセットした奴…」


それは他でもない楓香自身であったりするのだが。
というか、毎日セットしてあるそれをうっかり解除し忘れていただけであるのだが。
ぶっちゃけ楓香には関係ない。
楓香の安眠を妨害する奴には制裁が下るのだ。
それは楓香自身も例外ではない。
この場合は楓香いわくの朝早くに起きてしまったことが制裁に値する。
9時半が朝早くに相当するかどうかは、完全に楓香のさじ加減ではあるが。


「……ッぁーちくしょう…、だりィな………ン?」


とりあえずもう一度寝直そうと寝返りを打とうとする楓香。
体勢を整えるために腕に力を込めて、
そしてちょっぴり動きを止める。
あれ、
何かおかしい。
…何だか腰の辺りに何かが巻き付いてる感覚がある。
何だか抱き締められているような気がしないでもないが、この部屋に住んでいるのは楓香一人。
更には夜這いをしてくるような危険人物も知り合いにはいないため、そんな考えは即座に消えていった。
では一体何が巻き付いているのだろうか。
あいにく楓香は標準より若干痩せ体質な上に、骨盤も矯正するほど曲がっていないので、寝る前に腰にバンドを巻いたりといったことをしない。
というかそんなのを巻いた記憶はない。
そもそも巻く理由もないのだが。
でも何故か腰に何かの感触がする。
…この、楓香の腰に巻き付いているものは一体何なのだろう。
そして少しばかり思考を巡らせた楓香は、いろいろな意味で即座に青ざめる。


そういえば昨晩部屋に侵入者がいたような。
それはちょっと頭がイってしまった男だったような。
それは二次元王子の格好をしたレイヤーだったような。
そして楓香は、それを殴って気絶させたような。


………、
……………、
まさか。
まさかまさか。


がばッ、
楓香はものすごい勢いで体を起こした。
跳ね退いた布団はばさりとベッドから落っこちる。
だがしかし楓香にはそんなのに目をくれている余裕がない。
急いで首をぐりんと壁際に向けた楓香は、その後、コンマ一秒の間もなく文字通り固まった。

そこには、陽の光を受けて鮮やかに輝く僅かに蒼色ちっくな髪の毛の、強いていえば理解しがたい正装(という名のコスプレ)服に身を包んだ、二次元レイヤー王子が寝息をたてて安らかに眠っていたりした。


…バカな、
コイツは楓香の心身的疲労とアルコールやニコチンの短期間多量接種による幻覚のはずではなかったのか。
二次元からいらっしゃった妖精さんの類いではなかったのか。
一晩寝たらさようならな夢の産物ではなかったのか。
真面目なお話で、現実にレイヤーが忍び込んできてしまったのだとしたらマズイ、
大問題過ぎる。


「いやいやいやいやいやいや、違う違う絶対違う。
疲れてンだ、疲れてンだアタシ。きっとまだ寝足りないんだ。そうに決まってる。そうと決まったらこれはもう寝るッきゃねぇなそうだなうん!」


ほとんど条件反射のごとくベッドから飛び退き、床に落ちた布団を手繰り寄せる楓香。
ベッドには戻れない。
何故か消えてくれない二次元の産物が寝てるから。
そうだソファーだ。
ソファーで寝よう。
視界の隅で蒼い影が起き上がったの何か全力で無視だ。


「見えないぞ、アタシには見えないぞ、レイヤー王子が今まさに起きてしまったところなんざ見えなかったぞ!」


目にも止まらぬ早さと言える速度でソファーに横たわる楓香。
昨晩と同じように布団を一気に引き上げて頭まで被る。
ちくしょう、
ちくしょうディスプレイ仕事しろ、
二次元に恋する乙女の恋路を邪魔するようにこの部屋に具現化した変態コスプレイヤーを妨害してくれ。
アタシは触れたり触られたりしなくていいンだ、見てるだけで十分だから。
しかしそんな願いも天には届かず、
何のデジャヴだかは知らないが、昨晩と同じようにゆっさゆっさと体を揺さぶられる。




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