頭が末期に近付いてます。


頭をがしがし掻く楓香の目の前に立ったのは一本の指。


「………何?」

それはレイヤー王子の指だ。
いきなり指を立てられるいわれはないのだけど、中指じゃなく人差し指だっただけよしとしよう。
訝しげに眉を寄せる楓香にアラルドは聞く気があると解釈し口を開く。


「ヒトツ尋ねたいことがある」
「…へぇ。なるべく手短に頼むよ」


はてさて、このレイヤー王子はどんな無理難題を強いてくるつもりなんだろう。
ここに馬車はあるだろうか、とか、
兵士が見当たらない、とか、
城はどこだ、とか言われても楓香は困るだけである。
例えばありがちなパターンで、さらわれた姫を助けに行きたいのだが、とか言われてもまっこと困る。
その場合は全力で病院を勧めてやろうかと思いつつ。


「我は今人を探しているのだ」


ホラきた。
お約束のパターンですねわかりまs。
これは病院送り決定だ。
…アタシの頭が。


「ああそうかい。そりゃどこの姫さんだい」
「いや、魔女だ」
「ああそう魔女ね。魔女魔女…ッてはぁぁあ!?」


半ば聞き流し気味に耳を傾けていた楓香は夜中だということを忘れて思わず叫んでしまった。
急いで口を押さえてチャック。
大丈夫、ここは一番はしっこの部屋だしお隣のお姉さんは色々忙しくていらっしゃるおかげでここ1〜2週間は見かけていない。
帰ってきてる気配はあったけど数時間前にまた出掛けていったはずだ。
…というか今はそうでなく、レイヤー王子の発言に楓香は唖然とする。
なんたるカミングアウトだ。
魔女を探す王子。
ますます末期に近付く楓香の頭。
殴れば治るだろうか。


「そこで斯様な巡り合わせではあるが、小部屋の主足る貴様に彼女の居場所をだな、」
「ちょちょちょ、ちょっと待ってくれ、それはマジで魔女でいいのか?姫じゃなくて?」
「我がいつ姫の居場所を尋ねた。姫は探すまでもなく隣国の宮殿に…」
「ああぁぁああちょっと待てそれ以上言うなどうなってンだアタシの頭ぁぁあああ」


これ以上会話を続けたら自主的に末期に前進してしまいそうだ。
幻覚と会話をするのは止めよう。
そろそろ痛いし頭がヤバい。
寝よう。
何事もなかったかのように寝よう。


「おい女、」
「待て王子、アタシはアタシの想像以上に疲れているらしい。その話は明日の朝にしてくれ」
「何を言うか、事は急を要する。早急に見付け出さねばならぬのだぞ。…そもそも我は城を抜け出して来ているわけであってだな、」
「じゃあ帰れ今すぐ帰れ二次元に!!」
「だから魔女を探さねば」
「魔女の居場所は知らん!明日以降探すなら手伝ってやらんことも無いが今日はもう無理だ!アタシの頭は末期なんだ!」


逃げるようにベッドへ。
そしてすべてをシャットアウトするように掛け布団をぼすっと頭まで被る。
なんだか体を揺すられている気がするのは気のせいだ。
起こされている気がするのも気のせいだ。
それでも無理やり起こされた時と同様、体の上にずしっと重みを感じたならば。


「頼むから寝かせてくれまじでもう本当痛切に」
「そういうわけにはいかぬ」


ゆっさゆっさ。
起きろ、と言外に告げる動作に妨げられる眠り。
楓香、は、
眠りを妨げられるのも嫌いだ。
うるさいのはもちろん、体を揺さぶられるなんてのはもってのほか。


ぷち、

何かのキレる音が聞こえた。


「おい、話を…」
「だぁぁぁあああじゃかあしいわッ!!!黙れ寝ろ!寝かせろ!」
「ぐッ」


ごすっ、
と、ちょっと痛そうな音が響いたのは聞かなかったことにしてほしい。
鳩尾を殴られて気を失ったどこぞのレイヤー王子がシングルベッドに横たわっているのも見なかったことにしてほしい。
楓香の安眠を妨害する奴には制裁が下るのだ。


「ッたく、幻覚のクセに触れるとか反則過ぎるだろちくしょうめ」


ぼすっ。
呟いて再度掛け布団を頭まで被る楓香。
翌朝起きたときに、隣でレイヤー王子が寝ていることに気付いた彼女はきっとまた現実逃避を始めるだろう。




そっと優しく、抱き付かれた気がした。


(しる、ゔぃあ、と)
(小さく呟く声が聞こえる)
(何だか腰の辺りに圧を感じるのだけど)
(…夢だということにしておこう)



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