役職(1/2)
カツンコツン、
足音が反響して不気味な音を立てる。
店の奥へと続く廊下。
何となく薄暗いのは廊下の窓がツタでおおわれているせいかもしれない。


「薫君…、って誰…?」
「ここで一緒にバイトしてる奴」
「へぇー…、じゃあ…物語の修正は4人一組とか?」
「4人一組、ッてか、人数の問題じゃねぇンだよ」


麻子が何気なく発した疑問に答える晴輝はどう説明したものかと頭を掻く。


「そういえばまだ店長が説明してねェから難しいかもだけど、ここで雇われてる奴にはそれぞれ役職があってだな」
「…役職?」
「おぅ。例えば店長、アイツは監視屋ッつー役職でいつどの絵本が狂ったかを見付ける役目なんだ」


ちらりと目を向けた先、仮にも雇い主に向かってアイツはないでしょう、と肩をすくめる店長が視界に入った。
しかしながらそれ以上何も言わないところを見るとどうやら晴輝の説明は間違っていないよう。
へぇ、と小さく相づちを打って。
そういえばさっき千歳が店長を監視屋と呼んでいた気がする。
それは役職を示した言葉だったのかとヒトリ小さく納得。


「まぁ、他にも色々あるんだけどよ。
そんな役職の中での俺らの呼び名は"修正屋"」
「修正屋、?」
「――…文字通り、物語を修正する役職のことだ。現在は俺と晴輝、お前の他に5人程しかいない」
「実質動いてンのは俺と千歳くらいだけどな」


珍しいとでも言いたげに途中から説明に混ざった千歳を見て軽く目を見張る晴輝。
キッとにらみ返す千歳だが、店長の短い言葉でしぶしぶ威嚇を止める。
対する麻子はというと、ころころ変わる物語の修正をこの二人だけでこなしていたなんて相当大変なんだろうなぁ、とか想像してみたりしてちょびっとげんなりしていたり。
あたしはこれからその仲間になってしまうのか。
他の5人はどうした、と思っても、あちらから話してくる気配がないのにずけずけ聞いてもあまりいい気はしないだろうと思って口を閉じる。
今説明しないということはおそらく今知らなくてもいいことなのだろう。


「…修正屋の皆さんには物語に入ってからの行動をサポートしてくれる"誘導屋"、通常オペレーターと呼ばれている役職の人間を一人つけることになっているんです」
「オペレーター…」
「簡単に言えばガイドだな」
「それはあまりにも簡単に言い過ぎだ」


晴輝のからりとした笑いに即座に入る千歳のツッコミ。
ウマが合わなそうなそぶりを見せながらも実は相性がいいのかもしれない。


「…物語の修正は皆さん修正屋に、目的や誘導をオペレーターにお願いしています。
物語の世界に入るにはもう一人、"渡し屋"という役職の能力が必要なのですが…」
「…渡し屋、」
「こっちとあっちを繋げる役目な。渡し屋がいなきゃ修正屋は物語に入れねェ」


こうして聞いてみると案外いろいろな役割があるものだ。
修正屋、誘導屋、監視屋、渡し屋、今出てきたのはこの4つだが実際はもっとあるらしいのだから、単に物語の修正といってもやはり大仕事なのだろう。
そうこうしている間にたどり着いたのは階段を下った先。
まさか地下があるなんて思わなかった麻子は少々驚いた。
そこは床壁天井すべてがコンクリートでおおわれた場所。
当然のことながら窓なんかなくて光も入ってこない。
空気はひんやりして、ちょっぴり薄気味悪かった。
コンコンコンコン、
地下に下りて廊下を歩いた先、現れた部屋のドアを叩くノックの音は店長が発する音。
日本人はノックをするとき大抵コンコンと2回叩くが、正しくは4回。
2回は正式にはトイレをノックするときの合図だったっけ。
…なんて、下らないことを考えている間にカチャリと目の前のドアが開いた。



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