異変(2/4)
図書館を出た後は何件か本屋を回った。
確かめたかったのだ。
あの絵本たち。
いやに手が込んでる悪戯の可能性だってなきにしもあらずな学校の図書館なんかよりは一般の本屋で確かめた方が早い。
だって一般人は手出しが出来ない。
店頭の本をすり替える真似なんて出来ない。
一人の人間を欺くことなんて、出来ない。
もし次の本屋のそれが図書館と同じく沢山のお供を引き連れた桃太郎であったならば仕方がない。
麻子は自分の記憶が間違っていたということで納得せざるを得ないだろう。
徐々にキツくなってきた陽射しを避けるようにしてたどり着いた3件目の本屋、店に入るとひんやりとした風が心地いい。
目に入る位置に並べられた雑誌や漫画も今は眼中になくまっすぐ目指す先は児童図書コーナー。
そこに向かって一直線。
ずらりと並ぶ背表紙を指で辿って、見付けだす『桃太郎』の3文字。


よし、あった。

するり、
背表紙に指を引っ掻けて取り出す絵本。
見える表紙には動物が沢山。



……………。
駄目だったか。
やっぱりか。
さすがにもう無理かとは思っていたけど。
やっぱりここも同じ。
図書館とも1件目とも2件目とも同じ。
桃太郎のお供は軍隊レベル。
これなんてホラゲー。

嗚呼。
ついに。
ついに麻子はどうやら、この18年間生きてきて当たり前だと思っていた童話の記憶を塗り替えなくてはならないようだ。

…まぁ、よくよく考えてみれば確かに、村人を困らせるほどに力のある鬼たちの所によくもまぁ3匹のみのお供を連れて挑みに行ったものだなぁと思ったりもする。
赤ずきんだってそう、人魚姫だってそう、かぐや姫だってそう。
そう、さっき図書館で見た本たち。
内容が麻子の記憶と違ったのは一部の絵本のみだった。
その一部の絵本、どこかズレてる内容のお話は麻子の記憶と違う。


何で変装してる狼に気付かないの、とか。
何で声をなくしてまで陸に上がったの、とか。
何で、隠れ蓑として竹を選んでしまったの、とか。

まぁいい得て妙だが、今の物語の方が合理的で現実的であるような。
…いやいやでも。
でもまさか18年生きてきて今まで誰にも指摘されなかったとかもちょっとおかしくある気もするのだけど。
…でも違うのかなぁ。
困った時の神頼み、…ならぬ友達頼みで高校時代の友人に何でもないふうを装ってメールを送信。


件名:ふと思った。
本文:あのさ、突然悪いんだけど桃太郎のお供って何匹だっけ?



ぴこんと送って数分後。
ちゃらりんと軽い音がメール着信を告げる。


件名:どうした。
本文:何匹、って難しくないかそれ。
そもそも数えられる規模の数じゃないでしょ、東京制圧出来ちゃうかもよ(笑



……、
そっか、あたしが間違っていたんだね。
高校時代の友達までこんなことを言ってくれちゃうンじゃあこれは信じるより他がないというか。
…これ以上考えるのも無駄っぽく。
周りの人たちはそれで違和感を感じてないんだからもうそれでいいやと半ば諦めモード、友達に有難う、と返事を返して携帯を閉じる。

明日もう一度だけ確かめてみよう。
それで違ってたら自分が間違っていた方向で決着をつけよう。
うん。
そう決めてからはあとはもう帰るだけ。
抜き出した絵本を元の場所に戻してくるり、体を反転させて麻子は帰路についた。




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