出会う(1/5)
そこには2人の男がいた。
いわずもがなだが図書館棟で見かけた2人だ。
一人は黒髪、一人は長髪。
2人ともすらりとしていて背が高い。
俗にいうかっこいい部類の人間である。
何だこのひとたち。
…あたしに何の用だろう。
……っていうか誰だろう。
ぽこぽこ浮かぶ疑問に頭上はクエスチョンマークの嵐。
その間にもホラついてこいなんて言ってくるりと背を向ける彼ら。

しかしながら。

麻子としては全力で他人のふりをしたいところである。
なんていったって知らない人だ。
麻子だって一応一般的な教育過程は通過してきているので、知らない人にはついていっちゃいけないってことくらいは知っている。
というか、それ抜きにしてもちょっとついていきたくない。
何されるかもわからないし。
それでも直立していたならば、掴まれる腕。
さも知り合いであるかのようにぎゅむり、ぐいいっと。


「ホラ行くぞ、ボサとしてンな」
「ぅわったたた…ッ!?」


バランスを崩してつんのめる体。
ぐいっ、
ぐぐぐ、
だけども麻子の足は前に出てその場で頑張って踏ん張る。
ぴくりと口角が引き吊る彼。

「ちょッ、…いい度胸だてめェ」
「いやいや止めて下さい離して下さいってか誰ですか貴方あたしに何の用ですか内容によっては今すぐ叫びますよちょっと、…!」


迫力はない、のはわかってる。
だけども一応抵抗というものをしなければならないと、麻子の本能が切実に訴えているのだ。
ぐぐっと引かれる腕をぶぶぶっと上下左右に振って。
それでも抵抗のかい虚しく、男女の力の差が彼を有利に導く。
ずるると徐々に縮まる距離。
まずい。
本能的にそう悟った麻子はこのままではいけないと察知。
強硬手段に出ることにした。
そう、騒いでやる。


「k、」
「選択肢をやろう」


…え。
ぽかんと、一瞬思考停止する麻子の背後には何時の間にやら人の気配が。
そして口許には、何かが押し付けられる感覚が。

嫌な、予感がした。

恐る恐る振り返ってみれば、視線の先でものすごく仏頂面な長髪の彼と目があう。
彼との距離はものすごく近い。
その仏頂面から視線を下に下げて、首筋のラインから肩を伝って、腕がするりと麻子の方向へ伸びているのを見る。
もちろん麻子の視界では見えないが、十中八九その先の手は麻子の口許を押さえているだろう。
…なるほど、麻子は口を開いて叫ぼうとしたそば、声を発するよりも先に長髪の彼の手により口を塞がれてしまったらしい。
そうだ、奴らは二人だったんだ。
現状を把握して僅かに眉を寄せる麻子には、ちょっとどうしたって勝ち目がない。
知らないうちに後ろに回っていた彼はそんな麻子の様子を見てか、耳元に顔を寄せるととんでもない選択肢をのたまった。



「選べ。このまま大人しくついてくるか、俺らに強制連行されるか」


そばで聞こえる声がくぐもって聞こえるのはきっと頭が近くにあるせい。
がっちり空いた手首まで掴まれて、逃げることも許されないらしい麻子。
とんでもない選択肢に目の前の黒髪はにやりと笑ってるし、後ろの長髪は後者を選んだ場合に備えて掴む腕に力を込めている。

さりげなく、腰に回される腕。

…なんとなくだが、強制連行の構図が想像出来てしまった。
小脇に抱えられる図。
全力で御免蒙りたい構図である。


「…ンで、どっち選ぶ?」
「う、ぇぇえ…」


諦めに滲んだ表情を浮かべた麻子を見てか、黒髪の彼から向けられる勝ち誇った笑み。
いくら考えても現状打破の策を思い付くことのできない麻子は、なるたけ大事にならない方を選ばざるを得なかった。





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