扉の中(2/3)





  カツン カツン
カツン…   コ…ッ

     カ ツ ン…




扉の中はただただ不思議空間が広がっていた。
上が下で右が左であるような、前が後ろで後ろが前で、暗いのに明るく、暖かいのに冷たいと錯覚してしまうような、
そんな、現実とは違う空間。
もはや入り口の有無がわからない。
入ってきた扉が見えない。
出口も見当たらない。
暗い暗い暗い暗い、暗くて、怖い。
足元から響いたハズの音はどこで反射しているのか。
耳のすぐそば、あるいはずっとずっと下の方から絶えず聞こえてくる。
光る足場は足を踏み出すと現れ、足場から離すと崩れて消えていく。
引かれる手をぎゅっと握って、握り返される反応を糧に必死に前へと歩みを進める。
この手が離れてしまったならば、麻子はどうすればいいのだろう。
何処へ、どうやって行けば。
通信手段はわからない。
何処につながっているかもわからない。
ともすれば、そのまま外へでられないかもしれないなんて――――…、



「麻子」


ハッと、俯いていた顔を上げる。
次いで、繋がる手をより強く握られてぐッと強く引き寄せられた。
それと同時、別の方向から背中を支えられて、緊張から早鐘を打つ心臓を後ろからさすられる。
ほぅっ、と、忘れていた呼吸がリズムを取り戻す。



「臆するな、…何も考えなくていい」
「大丈夫だ、俺らがいる。出口はある、外にだって出れる。
不安で仕方がないなら…、ホラ喋ってろ。俺らは絶対、お前を一人にしたりしねぇからよ」



大丈夫だ、と。
言葉と、そして行動で示す晴輝と千歳。
彼らの意思に呼応すべく、握られる手からその温もりが、さすられる背から安心感が伝わってくる。
なんて心強いのだろう。
だいじょうぶ、…大丈夫。
完全に安心、とまではいかないものの、感じる不安は先程と比べたらずっとマシだ。
力強い彼らの言葉に、麻子はこくりと、しっかり頷いてみせる。


カツンカツンと、響く音は相も変わらず寂しくこだまするけれど。
視界の先に蒼白い輪郭に囲われた扉を捉えて知らず知らずに安堵する。


「出口…!」
「な、あったろ?」


僅かに歓喜を含んだ声に、前方を行く晴輝が僅かに頬を緩ませた。
一歩一歩確実に足を踏み出して。


「あれ、?」


前方の彼が素頓狂な声をあげる。
それは麻子の不安を掻き立てるにはおあつらえ向きの言葉で。


「え、え、何?どうしたの…?」

繋いだ手をぎゅっと握って。
そしたらぎゅっと握り返される手。
その間に、晴輝と千歳は何らかのアイコンタクトをとる。


「…………開かない訳じゃなさそうだな、仕事は一つ増えそうだが」
「…だよなぁ。ッたくふざけんなよ、今回は針が長いッてのに…」
「……………?」


そして、
訳のわからないままの麻子をスルーしたまま、晴輝は懐からカードキーを取り出す。
千歳も同じようにしているのを見て麻子もキーを手にとって。



ピピーという機械音が扉のロックの解除を告げた。






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