ヘアバンドお兄さん。(3/4)
扉の奥はもはや部屋というよりは大きな箱のような感じだった。
地下だから窓がないのは仕方ないとして、きっちり正方形に区切られた真っ白な区画、壁際になんだか複雑な装置に繋がれたパソコンと、部屋の中央に裁判所の被告人等が立つような柵とテーブルが一つ。
部屋の部屋たる概念や一般的な光景からかけ離れているが故に部屋っぽく見えないのかもしれない。
その部屋の中心の柵の前には人影が一つ。
目の前のテーブルの上には開かれた本が一つ。
その人物はこちらに気付くと首のみこちらに向けてにっこりと笑みを浮かべた。



「お揃いだね、…新入りの子もちゃんと準備は出来てるかな?」


ん?
と、問いかけられる視線が完全に麻子に向いているので慌てて首を縦にふる。


「そうか、それならいいんだけど…もう少し待っててね」


そう言い残して彼はまた首の向きを元の位置に戻す。
彼の、年齢は20代後半だろうか。
優しそうな雰囲気の人だ。
物腰柔らかな口調と優しげな目元がよりそんなイメージを与える。
額には髪の毛が邪魔にならないようにヘアバンドが。
それ以外は何の装飾品も身に付けていないよう。
もちろん、ブレスレットもイヤリングもついていない。


「ねぇ晴輝君、あの人が渡し屋さん?」
「ん?あぁ、そうだ。秋月千影、27の現役保育士。
今千影が絵本に入るために入り口作ってるからもうちょい待ってろな」


からりとした笑みを浮かべる晴輝。
その横では早くしろとでも言いたげな千歳が腕を組ながら立っている。
二人ともいつの間につけたのか、耳と腕にはデザインは違うものの、性能が一緒だと思われるイヤリングとブレスレットが光っていた。
そして薫はというと、いつの間にやら部屋の向こうのデスクに向き合いパソコンをカタカタ鳴らしていた。

その耳には、ヘッドセットが。

………、
……………、
あれじゃイヤリングからの音が聞こえなくないだろうか。
通信手段じゃなかったのかオペレーター。


「……薫、」
「気圧安定、時間軸補正完了、…時空の乱れはありません。入り口の固定も終わりました」
「よし…、」


カタカタタ、
キーボードのキィを滑らかに滑る指。
そのブラインドタッチに目を奪われていたならば、ぐい、と強く腕を引かれる。


「わ…ッ!」
「何ぼーッと突っ立ってンだ。入り口は繋がった、行くぞ」


どうやら犯人は晴輝だったようだ。
…一言声をかけてくれればいいものを。
キッと物言いたげな視線を向けてみると余裕の笑みが返ってくる。



「入り口の中は慣れてないと危ねぇからな、掴んでてやる。有難く思えよ新人」
「…手首が痛くなかったら考えますよ先輩」


思わず何様だと聞いてやりたくなったがここは麻子が大人になろう。
とりあえず掴まれた手首が悲鳴をあげているのに気付いてほしいので、もそりと補足説明をば。
ありったけの嫌味を込めて言い返してやったならば、晴輝は思わずの苦笑いを浮かべて。


「こらこら、まだ渡す物あるから。」


そしてゴチンと頭に軽く拳を受けて。
ヘアバンドお兄さんに呼び止められる二人であった。




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