変化(6/6)


「――……、」
「…どうだ、すんばらしい赤ずきんだろ」
「…何というか…、えぇぇ…もう何か…」

なぜか自慢でもするかのようににやにや笑う晴輝。
麻子はというと何か、原型をとどめていない内容に思わず絶句した。
なぜ崖から物を投げるんだ。
それでいいのか赤ずきん。
二の句が次げない麻子に店長はこほんと咳払いをする。


「…、それで麻子さん、何か気付いたことはありませんでしたか?」
「あっ、はい、一つだけですけど…」
「結構です、話してみて下さい」


店長に促されて麻子は小さく頷く。
気付いたこと、というほど大それたことではないけれど、改めてここで赤ずきんを読んで気になったことはある。
それはやはり物語の内容に関するものだ。

「…物語の内容が、あたしが知っているものとも、変わってしまった後とも違う気がするんですけど」


そう、
それは赤ずきんの行動パターン然り、狼の性格ですらまるっきり違うということ。
麻子が知っている赤ずきんは狼に食べられてしまう物語、変わってしまった赤ずきんは姉御肌でその赤ずきんに憧れを抱く狼の話であったはずだ。


「ほんの一時間程前まではお前の言う通り、これとは違う物語だったんだけどな」


過去形で語る晴輝はそういうと絵本をぱらぱらめくり始めた。
だった、ということは、この小一時間で変わった物語がさらに変わってしまったということになる。
麻子はますますわからなくなって小さく唸る。
そんな麻子に店長は例えばと口を開く。



「…一概に"物"いえど、私たちが知らないだけでその物質には魂が宿り、自らの意思を持つことがある…、と云うのは麻子さんもご存じですか?」
「はぁ、まぁ」


突然の問いかけに曖昧になってしまった返答。
だがしかし聞いたことはある話だ。
百年使い続けた物には魂が宿る。
九十九神というのがその例だろうか。
百年使い続けた物には魂が宿る、だから九十九年目の魂が宿る前に使うことを止める。
廃棄したことによって妖怪が生まれるなんて話もあるが、それはまた別の話だ。


「…その物と同様、いかに物語といえど長らく語り継がれたモノです。
中の人物に思考能力がついたとしても何ら不思議ではありません」


はふん、と自嘲気味にため息をつく店長。
そういう問題か、と、ちょっと無理矢理な説明に思わずつっこんでしまいたくなる麻子なのだけど、実際に起こってしまっているのだから仕方ないと割り切るべきなのか。
要するに、長年語り継がれてきた物語の登場人物が、自らの意思を持ち気ままに動いてしまっている、ということなのだろう。
そして、それを直すのがこの店の仕事。


「――…、と、いう訳で麻子さん。」
「はいっ?」
「早速ですがそこにいる晴輝君と千歳君、そしてもう一人…店の奥にいる薫君と一緒にお仕事に勤しんできて下さい。
お仕事の手順は…歩きながらお教えしましょうか」




- 20 -



戻る






第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -