逃走劇(2/5)
店を出ると湿気を含んだ空気にじわりと汗が滲んだ。
時刻は恐らく2時過ぎ、一番気温の高い時間帯である。
そんな不快度数8割超えしそうな気温の中。
小さく息をついて大きく深呼吸した麻子は、目の前を歩く二人に気取られぬよう細心の注意を払いながらタイミングを見定める。
そして二人がほんの少しだけ麻子から注意を反らしたその時を見計らって、素晴らしいスタートダッシュをきった麻子は。



逃亡を謀った。




「ちょ…ッ、てめッ!!待てコラ!」
「待てと言われて待つ奴がいると思いますかぁぁあああ!!!」
「速ッ!足速ッ!!つか止まれオィ!!」
「止まって欲しかったら捕まえるがいいですよッ!捕まる気は毛頭ありませんがねッ!!」
「いい度胸だてめェコラ!!絶対捕まえッかンな!!」
「潔く諦めて下さぁぁああぁあいッ!!」
「ッざけンなコラァァアア!!」
「大真面目ですよ馬鹿野郎ぉォオおお!!」


と、いうわけで、逃走劇の開始である。
逃走者麻子はとりあえず歩道橋を全力でかけ上がり全力で下って、狭い路地を猛ダッシュして住宅地を駆け抜ける。
普段ちびと言われるこの体、中学生以下に見られたり人を見上げなければならなかったり、電車で押し流されたりするいろいろ大変なこの体だって、一度かけっことなれば甚大なる能力を発揮する。
ちびにはちびなりに、すばしっこく動き回れるという長所があるのだ。
長身の彼の長い脚から繰り出される俊足にも対応し得るくらい、コンパスの差をものともしないすばしっこさ。
我ながら素晴らしいと思う。



「ちょこまか逃げンなッ!!」
「今諦めてすぐ諦めて潔く諦めて!!!」
「てめェマジとッ捕まえる!!」
「追い付いてから言うがいいですよッ!!」
「くぉンの野郎…ッ!!!」
「つかもう着いて来ないで下さいぃいッ!!」
「断るッ!!!」


いつの間にやら鬼ごっこ。
こんなに全力で逃げ回ったのはいつぶりだろう。
ちらりと後方を向くと律儀に追いかけてくる彼。
その顔はまさに鬼のような形相だ。
……絶対捕まりたくない。
潜り込んだ住宅地で右折左折を繰り返して、麻子は相手を翻弄させる作戦にでた。
かつて遊びの鬼ごっこではよく使った手だ。
そうすると大抵、鬼は追いかけるのに疲れて諦める。
だから諦めてくれるといいなぁと思いながらの作戦。
効果は、




「待ちやがれコラァァアアア!!!!」



…ないみたいだけど。





- 7 -



戻る






人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -