見付ける、(4/4)
図書館棟を出たら、やっぱり本屋を3件回った。
アスファルト焦げてんじゃないかと思うくらい暑い5月の異常気象に若干の苛立ちを感じながらも巡る本屋。
結果は全部撃沈であるわけだけど、どういう訳かやはり人魚姫だけはどこの店でも元の物語に戻っていた。
店員さんには一応絵本の入れ換えをしたか聞いてみたが、そんなことはないですよとあっさり否定されておしまい。
どうやって戻ったのか、何が原因で戻ったのかはわからない。
しかしながら、収穫として狂った物語は元に戻るということを知れたので結果オーライだ。
現在、知っているだけで3つの物語が狂っているわけだから、じゃあ3日も経てば全て元に戻るんじゃないかとか、都合の良いことを考えてみたりする麻子。
自嘲じみた乾いた笑みをこぼして何気なく店内を見やる。

はしゃぐ子ども、見守る親、児童図書コーナーだけあって他の場所よりはざわついているその一角。
絵本を手に取りねだるよう親にすがる子と、それをやんわりと制して絵本を本棚に戻す親の静かな攻防戦が勃発しているその一角。
微笑ましい様子に思わず頬が緩む。
まるで絵本の変化に気付いていない親子はお供選抜選挙真っ最中な桃太郎を買うか買わないかでバトルをしていたりするわけなのだが。

そんな微笑ましいいさかいが起きている児童図書コーナーで麻子は何故か、さっき図書館棟で見かけた大学生男児2人組を見付けた。

…何やってるんだろう、すごい偶然だなぁ、
なんて思ってみて一旦思考停止。
ちょっとばかし、思考回路を巡らせてみる。

…さっき、
いやいや人違いかもしれないけど、
さっき回った本屋でも見かけた気がしないでもないあの2人。
そういえば最初の本屋にもいたような気もする。
と、いうかそういえばだが、麻子は昨日もここであの2人を見た気がする。
いや、全部"気がする"だけだけど。
…しかしながら考えれば考える程、"気がする"の力はどんどん巨大になっていく。
ちょっと気を付けて観察してみると、見られてるような気がしないでもない。
麻子を見て、話をしているような気がしないでもない。


…もしやついてきてる?


そんな考えがぽこっと浮かんできて麻子は即座に頭を左右に振る。
いやいやいやいや、いくらなんでもそれはないだろう。
なんてこと考えてるんだ自分。
あたしまで狂ってどうする。
とりあえず落ち着け自分。
だいじょぶだ、
ついてきてなんかないよあのひとたちは。
偶然だ、単なる偶然だアレは。
被害妄想ってやつだ。
うん。
なんて、何度かいろいろと自分に言い聞かせて深呼吸。
だいじょぶ。
とりあえず本を棚に戻して店を出て、そんでもってついてきてるようだったら何気なく警察に立ち寄ろう。
そうすればきっとだいじょぶ。
うん。
そう決めて絵本を本棚へ。
深呼吸、
すーっ、はーっ。
意を決してくるり、
棚に背を向けて方向転換すると。



「よォ。お前中々楽しそうなことしてンじゃん、…ちょっと面貸せよ」
「…悪いようにはしない。騒がず黙って大人しくついてこい」


嗚呼どうしよう。
どうやら楽観視し過ぎていたらしいご都合主義な予想をぶっちぎって、
いつの間にか背後に立っていた2人組に本格的に拉致られるフラグが立ったわたくし一ノ瀬麻子です。




- 5 -



戻る






「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -