お仕事のお話。(2/6)


「晴輝君」
「ん、」


どさっと、
店長の一言で晴輝が持ってきたのは数冊の絵本。
題名はお馴染み 『赤ずきんちゃん』『かぐや姫』『桃太郎』


「…これは?」
「絵本です」
「絵本だろ」
「絵本だな」


いや見れば分かるけど。
呟く質問に見事に返答が一致。
3つの視線が麻子に集まる、が。
そんな絵本を目の前に置かれてもどうすればいいのやらわからない麻子である。
アレか、まずは新人らしくこれを本棚に片せとかいうパターンなのか。
一人もんもんと考える麻子をよそに、店長の人差し指がくるくると円を描いて本を指差す。



「まぁ、見て分かる通り彼に持ってきて貰ったのは絵本です。麻子さん、貴女これらの物語の内容は知っていますか?」
「…完璧に、とは言えませんけど」
「結構。では例えば…、この赤ずきん。ささっと軽くあらすじを説明して頂けませんかね」
「…はぁ」


いきなりまた突拍子もないお願いである。
渋々承諾してあらすじ説明の為に記憶を探る麻子。
…だけれども。
この話は確か狂ってはいなかっただろうか。
桃太郎同様、赤ずきんも素直にお使いには行っていなかったはずだ。
不安になって絵本に手をのばすと、店長の人差し指がそれを止めるように目の前に立った。


「その絵本は読まないでお願いします。飽く迄も麻子さんの記憶にある物語を」
「…はい、」


回収されて店長の腕に収まる3冊の絵本に視線を投じながら、仕方なしに麻子は思い出すように口を開いた。


「…昔々ある所に赤ずきんちゃんがいて、お母さんにお使いを頼まれた赤ずきんちゃんがお婆さんの家に行くと何時もと様子が違うお婆さんがいるんですよね。そしてお婆さんに扮していた狼に食べられた赤ずきんちゃんだけど猟師さんに助けてもらう」
「…すっげぇ簡潔だな」
「…いやぁね、」
「…まぁ、色々抜けている気がしますが大まかに言えば大体そんな感じですよね」
「…す、みません」
「いえいえ結構ですよ。…では麻子さん 」


苦笑を浮かべる店長に謝罪の言葉を述べると、店長はとんでもないといった風に両手を振った。
そしてにこりと笑みを浮かべると、今度は先程抱え込んだ絵本を再び前に差し出した。
絵本の表紙はやっぱりおかしい。
赤い頭巾をかぶった女の子と、その後ろで赤い頭巾を掴む狼。
と、
宙に浮くバスケット。
…ん?
…バスケット…?
あれ、前に見たとき、バスケットは宙に浮いていただろうか。
ちょっとした違和感を覚えながらも、麻子は店長に指示を仰ぐ視線を送って。


「あらすじを確認したところで…、今度はこの絵本を読んでみて下さい。多分一度は読んでいるかと思いますが一応、パラパラっとめくって…軽く目を通すだけで結構です」


そういって差し出された絵本を受け取る麻子。
…麻子、は。
この絵本の内容は覚えてる。
確かさっき読んだときは、気の弱い狼が唯一よくしてくれるお婆さんになつき、そして赤ずきんちゃんに恋心を抱いているお話だった。
当然そんな狼がお使いでお婆さんの所にたどり着いた赤ずきんを食えるはずがなく、ついでにいうと狼に優しくしてくれたお婆さんですら食えるはずもなく。
お花を摘んだり魚を釣ったり川で遊んだり、自由気ままに動く赤ずきんをただ遠くから見ているだけにとどまる狼。
そして無事お使いを終えた赤ずきんは何事もなく家に帰っていった。
もちろんあんなのが赤ずきんであっていいはずがない。


差し出される絵本に手を伸ばして。
その表紙を、めくる。




- 16 -



戻る






第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -