強制連行(4/5)
ぐったりとした足取りで歩く道のり。
時刻は恐らく2時半過ぎ、二番目くらいに気温の高い時間帯である。
そんな不快度数8割超えしそうな気温の中、麻子は現在黒髪の彼に手を引かれて歩いている。
ご推察の通りあのあとすぐに捕まりました。
いやまぁ仕方ないんだけどね。
だって2対1だ。
挟み撃ちにされたら逃げるのは無理だもの。
逃がすまいと掴んだ腕を放さない彼は前方、後方ついてくる長髪の彼は麻子が逃亡を謀らないように見張ってるっぽい。
…もう疲れはてて逃げるなんて気なぞ起きない訳であるが。
どうしたら腕を放してくれるものかと悩む麻子が言葉を発するより先、ぐちぐち文句をぶちまけまくっている黒髪の彼の口から呟きがもれる。


「…ッたく。俺らはお前に聞きたいことがあっただけだッてのによォ。…お前のせいで余計な体力使っちまったじゃねぇか」


と。

………、
あれが、
聞きたいことがあったなんて態度だったのかが甚だ疑問であるのだけど。
何処に向かっているかは未だに謎だが、暫く歩いてみても車に乗せられたりだとかされないあたり、(まだ疑わしくはあるものの)今のところ危害を加える気はないっぽい。
取り敢えず機嫌を損ねたらしい黒髪の彼に(自分でも何故かはわからないけど)謝罪の言葉を呟いて、聞きたいことがあるという彼らの話に耳を貸す体勢をとる。



「何か聞きたいことがあるんだったら聞きます、何ですか?」


するといささか機嫌が戻る彼。
様子を伺うように見ていると、改めて聞かれたことにどう切り出したものかと思案しているようだった。
そして暫くの沈黙を経て、ようやっとこちらを向いた彼が開いた口からは、予想しなかった質問が飛び出た。



「――…お前、本屋で絵本読んでただろ?あの絵本読んでどう思った?」
「…は?」


口をついて出た言葉はあまりにも失礼というか、素頓狂というか。
彼の機嫌がちょびっと悪くなるのがわかった。
あわてて小さく謝罪を述べて急いで思考を巡らせる。
絵本、?
あれだけおいかけておいて、聞きたいことは絵本を読んだ感想だなんて。


「どう、って言われても…?」
「だから、何でもいいからどう思ったか言えよ聞いてやるから」
「いやあのだから、」
「早く言えよまどろっこしいなてめェ」
「えええぇぇ」


理不尽な要求を受けた頭が困惑状態。
何とかフル回転させてみるものの、返答の用意が出来ていないわけであるわけで、一体どう答えていいものやら。
どう思った?
面白かったとでも言えばいいのだろうか。…そういえば鬼ごっこで忘れていたけど、図書館塔からずっとついてきている彼らだ。
それを考慮すればよっぽど聞きたい質問だったんだろうとは推測できるけど。
…だったら連れ出さないでその場で聞けばよかったじゃないかとか、何であたしに聞くんだとか、ぽこぽこ疑問が浮かんでくる。
だけれども、早く言えよおらなる言葉が背後に浮かび上がって見えるくらい、目の前の黒髪は感想以外の言葉を受け付けない感じだ。
じゃにーず顔負けの顔が何だか凄く勿体無い。


「えー…と、?…何だか不思議な物語で理解不能というかなんと言うか…」
「あン?」
「何でもないですスミマセン面白かったですごめんなさい」


問題を起こしたくないが故の低姿勢っぷりは我ながら呆れるほど、謝罪の言葉は早かった。
しかしながら相手方は謝られた理由がイマイチよくわかってないみたいで目をぱちくりさせている。


「…じゃなくて、もっかい言え感想。本屋何件も回り回って面白かったなんて顔じゃなかっただろお前」


見てたのか。
と、拉致やら何やらに加えてやっぱりストーカー疑惑も沸き起こってしまってどうしよう。
訝しげな視線を送ればやべッと口を滑らせた感溢れる反応にはぁあっと溜め息をヒトツつく。
質問に対しては童話は好きですよとか、適当に言ってしまえばいいだろうか。
…本当は率直に絵本の内容が変わってしまったッて言ってしまいたいのだけど、そんなことを彼に言ったってどうせ信じてもらえないのが関の山だ。
しかしながら誤魔化そうにも、どこに行くんですかだとかどこまで行くんですかだとか、道のりの途中で投げ掛けた質問はほとんど全て、気にすんなだとか煩い黙れでシャットダウン。
嗚呼何を聞いても無駄なんだなと悟って、そこからはだんまり黙ってひたすらに歩くだけ。
信号を渡って歩道橋を登って大通りやら住宅地やらをぐるぐるまわって、もうどこを通って来たのかすら覚えていないくらい複雑に曲がって曲がって曲がって。
答えに困る麻子を見てか、しびれを切らしたのかは定かではないが、一向に口を開こうとしない麻子が答えやすいようにと、黒髪の彼が質問を変えてくれた。




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