『――…ゼウス、』
『………何、アテナ』


シン、と静まり返る空間。
場所は何処かの神殿だろうか、古めかしい石造りの建物は所々風化して傷みが入っているように見える。
味気も何もない作りの神殿には、文字通り何もない。
神殿内を散策してみれば或いは何か文字の書かれた石板やら何やらオカルトチックな何かもあるかもしれないが、主空間となる言葉にはそんなものはない。
そこの中心にあるのは、長机のみ。
それを囲うように全部で十三の椅子が並べてあるだけ。
会話は、そこでなされていた。
お誕生日席の位置に一つとび出た椅子に座る影はまだ幼く、それはぱっと見で何処かあどけなさの残る顔立ちの青年であった。
ゼウス、と呼ばれたその青年は、己に声をかけた"神"へと視線を向ける。



『今朝方デメテルが降ろされた。始めはヘスティア、…そして、今現在ヘルメスがターゲットになっているそうだ』


アテナ、と呼ばれた女性は空席へ視線を投じる。
ゼウスがそれに応じ彼女の視線を追いかけたのを確認すると、次いで呼ばれた名に反応したヘルメスという青年へと話題を振る。
青年は、にっこりと笑みを浮かべて頬杖を付く。


『吃驚だよねぇゼウス、ボクで三人目だ。
…思ったんだけど、今回降ろす期間が短くないかい？まだヘスティアから数えて二週、次三週目に入るところだよ』
『うーん、この短期間であいつらがそんな力をつけられたとは思わないんだけどなぁ。
ここ数十年の話だぜ？』


腕組をするゼウスが視線を投じる先は二つの椅子。
現在、用意された席に座っているのは十人。
椅子は三人分が空席となっていた。


『…一週間に一人…、全員がやられるのはじゃあ十三週間後か』
『ゼウス、もう既に二人居ませんわ。週で言うなら十、十一週間後かと』
『そこは流せよ』
『アフロディーテに当たるな。
…月換算で約二ヶ月。時間は有るようで無いな。どうするんだゼウス、何か策はあるのか？』
『そういうポセイドンはどうなのさ、何か具体的に対策とかあんの？時間無くても実行出来る面白い策』

『無い』

『……うんまぁ、そう言うと思ってたけどさ』



からりと小さく笑みを浮かべて。
ゼウスは小さくため息じみた空気を吐き出す。
集まり話し合う彼らは揃って口に出す。


時間が無い

と。


『対策ねぇ。もういっその事全員降ろされたら天罰でいいじゃねェか』
『それじゃ楽しくないじゃーん、どうせ勝つってわかってるんだったら少しでも面白くさ。
ヘファイストスは有意義な作戦会議みたいなのして少しでも暇潰しにしたいと思わない？』
『…まぁ、暇潰しになるならそれに超したことは無ェけど』


時間がないと言う割には全員が全員、余裕綽々というか。
起きてる事象全てを暇潰しと思っている彼らには、そもそも危機感というものが無い。
自分の身に何が迫っていようとも、決して困ることはない。
個という存在が消えても気にしない。
例えそれが"死"であっても、彼らはそれも善しとする。

其も、
"神"には死が存在しない。

ただ巡るだけ、新しい自分が創られるだけ。
自分と云う存在は永遠在り続けるが故、彼らは"死"すらも恐れない。
すげ替えが利かない"神"であるのだと、。
豪語する。





――そう、彼らは神である。


偉大なる、オリンポスの十二神。



この世を統べる、神である。



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