ある日、
かまどの女神、ヘスティアが捕らえられたという。
ヘスティアは天界に帰れないことに怒り、己の能力を行使する。
ヘスティアは、竈、ひいては家政を司る。
神の不思議な力によって、
人々は家事全般への意欲をなくし、
しかし食べるために仕方なく台所に立てば何故かレンジが爆発したり、コンロの火が弱すぎたり強すぎたり点かなかったり、料理を作るのに様々な支障が生じて大変な事態に陥っていたりする。
そんな中、今度は農業の女神デメテルを捕らえたとの情報が流れた。
デメテルは農業、ひいては穀物を司る神である。
かまどの女神を留めただけでこの惨事、農業を司る女神なぞ捕らえたらどうなることやら。
人々は近い将来酷い飢饉と直面すること間違いなしだ。
そして更にデメテルを捕らえたという情報と同時、次は商業の神ヘルメスを捕らえると発表したとニュースが流れた。
世の行く末は想像容易、きっと経済大混乱だ。
いくら情報に疎いユリウスにだってわかる。



「まずい。世界が崩壊する」
「…オレん家の晩御飯も崩壊してるんだぜユリウス。
…これきっとヘスティアが降ろされたせいだ、姉が作りおき出来るカレーしか作りやがらない」
「知るかよ」
「……今のうちに食料とか買っといた方がいいかなぁー。…やっぱカレー我慢すべき？」
「知らねぇッての」


いつの間にか起きたキーツが後頭部をさすりながら教卓へともたれ掛かる。
ちゃっかり神降ろしに関連した話題を振っていたらしいキーツだが、仲間に報告出来るようなお話が欲しいユリウスはそんなことには気付かない。
未だに晩御飯事情を引きずるキーツにユリウスが冷たい一言を放つと同時、ガラガラと音をたてて教室の扉が開かれる。
入ってきたのは、四〜五人程の男女。
その手には購買で買ってきたのか、種類豊富なパンが抱えられている。


「どーォ？カミサマ救う話は進んだ？」
「むしろ触りにすら入ってねェよ」
「うわ、私たちが買い出し行ってる間にアンタたち何話してたわけ？」
「オレん家の晩御飯事情について」
「……激しくどーでもいいです」
「何でだ！？」


簡単な会話を交わしながらそれぞれが教室の後方から真新しい椅子を引っ張りだして、それと一緒に引きずり出した机を円卓状に丸く陣取ったら準備ＯＫ。
辺りをぐるりと見回して、最年長らしき青年がこほんと咳払いをする。

「それじゃあ第二回、"カミサマを救う会"の会合を始めたいと思う。全員、資料は持ってきたな？」


それは、
壮絶な戦いを始めるための会議の始まりであった。


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