悪戯的視察(3/3)
「じゃあ、改めてユリウスの報告を聞こうか」
にっこりと笑うアーノルドに反論する者は誰もいない。
とにかく彼の機嫌を悪くしないようしぶしぶ立つユリウスに、ちょっぴり悄気ているハーティやらその他の視線がぶつかる。
「あー…っと、」
言葉に困るユリウス。
マズイ。
雰囲気が。
まさかこの状況でまともな検索結果が出なかったと言えるはずがない彼は、遠慮がちに周りを見渡す。
ここでまたアーノルドを怒らせる訳にはいかない。
自分の身が危ないと悟るユリウスに、こっそり救いの手が差し伸べられた。
机で見えない位置、制服のズボンをくいくいと引っ張るのは、隣のエティ。
彼女は視線をあらぬ方向へと向け、ユリウスに紙の束を差し出している。
「(サンキューエティ…ッ)」
「(さっき庇ってくれたお礼です)」
こそっと他にバレないようにお礼を述べて、気を取り直して口を開く。
まずは、自己紹介。
「ユリウス・ランズウィック、高校2年。分野は主に―――」
途端、喋っていたユリウスの体がビクンと震えた。
彼は瞳孔が開いたまま、その場で立って動かない。
口も開かない。
「…ユリウス……?」
不審に思ったアーノルドが席をたってユリウスへ歩み寄る。
その間も、ユリウスは動かない。
「……先輩、」
「わかってる。…フェイ、」
「………や、周りに人の気配はないよ。…もう放課後だから特にだけど」
凛、とした空気。
ビリビリとした細かい振動が肌を打つ。
敵の気配がない、感じられないということは、それだけ手練れということか。
警戒心を強めるアーノルドと、その他面々。
もう一度呼び掛けてみたならば。
「ユリウス、…?」
衝撃は、唐突だった。
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