304号室の林田さん。



…………。
またか。
風もないのに小刻みに揺れる林田さん家のドアノブに、僕はため息をついた。
そして、仕切り直しに背筋を正して、コンコンとノックを二回。
ほどなくして、部屋の住人が顔を出した。


「………こんにちは、賢吾さんだと思いました」
「ノックするの僕くらいですもんね」


にっこりとした笑みを浮かべて出てきた青年は、林田さん。
漫画や小説をよく読むらしく、ネットにも精通しているので、僕とは比較的仲がいい。
さてこの林田さん。
ちょっと困った体質だったりするのだが。


「あれからどうですか?収まりました?」
「お陰さまで、顕著な現象はなくなりましたよ」
「それはよかった。…今もドアノブ揺れてますけど」
「きっと立て付けが悪くなっちゃったんですよ」


あははと笑う林田さんは、超高性能霊媒体質。
結構頻繁にポルターガイスト現象を体験している。
本人がこの様子なのであまり指し出た真似はしないように心がけてはいるものの、事情が事情なだけに気になるので。
気休めにでもと思って、この前神社で買ってきたお守りをあげてみた。


「…そういえば、昨日の地震大丈夫でした?」
「地震…?そんなのありましたっけ?」


ふと、ふられた話題に小首を傾げる。


「凄かったですよ。食器棚の扉がいきなり開いて、中の食器がブワッて宙を舞ったんです。
あまりにもびっくりしちゃってスローモーションに見えましたよ。まるで浮いてるみたいでした、すごい揺れだったみたいですね」
「……………それって、」
「あ、でも床に落ちた食器は奇跡的に一つも割れなかったんです」
「………そう、だったんですか…」
「賢吾さんのところは大丈夫でしたか?」
「あぁはい、何事もありませんでした…」
「それはよかった!…あ、家賃ですよね、ちょっと待ってて下さいね」


部屋の中へととたとた戻っていく林田さん。
どうやら。


「お守りに効果はなかったみたいだな…」


次は破魔矢でも買ってきてあげようかと思いつつ。
お財布を開いた瞬間に飛び出したゆきちさんやらのぐちさんやらに翻弄されつつ、捕獲を試みる林田さんを手伝ってあげる。
いつか林田さんにも平穏な時が訪れるといい。
…いつになるのかわからないけど。



無事林田家の家賃徴収を終えたので、次行きます。




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