303号室の一ノ瀬兄弟。



一ノ瀬兄弟の部屋に向かおうとしていたら、後ろから声をかけられた。


「あ、どうも賢吾さん」
「え、?…あぁ、託守君!」
「……そういやもう家賃徴収の時期ですか」
「今から行こうと思ってたところだよ」
「今ここで払えますよ」
「ホントに?」


303号室にお住まいの一ノ瀬さんは、兄弟二人で生活している。
お兄さんの正樹君と、弟の託守君。
二人とも真面目でいい人。
正樹君は親しみやすくていろんな人をすごく気にかけてくれる。
託守君は淡々としているけど、一度会話をするようになれば自分から話題をふってくれたりして話しやすい。
そして気遣いが上手。
託守君は僕よりは年下だし、正樹君は同い年だから、僕はちゃんとタメ語を使える。
…たまに敬語になるような例外もあるんだけど。


「はい、しっかり頂きました」
「お世話様です」


足りない分もなくきっちり支払いをすませて。

「正樹君は元気?」
「元気ですよ、寄って行きまs……あぁ、やめた方がいいか」
「?」


思わず苦笑をもらした託守君に、僕はわずかに首を傾げる。


「来てるんですよ、今兄貴の友達が。
……賢吾さん苦手でしょう?」



そういって、託守君は自分のほっぺたを斜め十字になぞった。
そして僕は理解する。
一ノ瀬兄弟の兄君は、怖いお兄さんたちに知り合いが多かったりする。
例えば顔に傷があったり、
例えば沢山ピアスをつけていたり。
例えばハデなYシャツを着ていたり。
例えば輝く装飾品を身に付けていたり。
麻薬密売とか臓器売買とか、そういったものには全く手を出していない、健全な極道の強くて怖いけど根は優しいお兄さんたちなのだと。
正樹君はリクルートスーツに爽やかな笑顔で言っていたけど。
僕からしたらただの怖いお兄さんたちだ。
故に、僕は正樹君にお客さんがいるときは極力会わないようにしている。
託守君はそれを知っているから、事前に僕に教えてくれたりしてくれる。


「兄貴には俺から言っときますよ」
「ごめん、ありがとう」
「いえいえ」


では、と、
自分の部屋に入っていく託守君。
中から盛大な笑い声とかが聞こえてきたりして。
僕はそそくさ、次の部屋に移動。




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