205号室の片山さん。



ちゅどーん、
なんて。
ありきたりな音が聞こえてきた。
いやうん、普通に過ごしていれば聞かない音なのだからありきたりというのはおかしいのかもしれないけど。
これは明らかに爆発音。
僕も半年前まではこんな音、映画やアニメでしか聞いたことがなかった。
…最近は頻繁に聞くようになってしまったものだが。
ピンポーン、なんて押すまでもなく。
僕はがちゃっと部屋のドアを開ける。



「片山さぁぁぁあん!!」
「うぉぉおおぉお!?や、山田青年!?ちょ、今日来ンの早くね!?うぇッふゴホッ!」
「煙すごッ!片山さん何爆発させたんですか!?」
「ばっきゃろうお前、そんな野暮ったいコト聞くンじゃねぇッ」
「一体何が野暮ったいんですか!っていうか早く窓開けてください!」
「そうだったそうだった任せろィ!!」


もくもくもくと煙が窓から溢れ出て。
ご近所さんも日常茶飯事なこの光景に、ここ数年で学習したのか、片山さんの部屋から黒煙が上がっていても誰も通報しなくなった。
有難いんだか有難くないんだか。
きっと後者の方だろう。
片山さんの部屋からもし万が一出火してアパートが火事になったりしたらマズイじゃないか。
…そういえば片山さん、爆発するのに火事にはならないな。
それは奇跡中の奇跡なのだけど。
…いやいや、本題はそこじゃない。
大きい少年な片山さんに説教でもしてやろうかなどと思いつつ。
換気のお陰で少しはマシになった焦げ臭いこの部屋に足を踏み入れて。
僕は、一際黒焦げた香水瓶を見付ける。
と、いうことは。
今回の実験は固形物ではなく液体であった可能性が極めて高い。


「………で、今回作ろうとしていた薬は?」
「……………今田少女に尽力してやろうかと思ってよぅ。」
「…………で、今回作ろうとしていた薬は?」
「……効能はまだ秘密なんd」
「で、作ろうとしていた薬は?」
「……………………、」
「薬は?」
「……………≪マジカル☆ハイパワー≫」
「具体的に。」
「………『説明しよう!≪マジカル☆ハイパワー≫とh』」
「簡潔に。」
「…………飲むと黒魔術の成功率が格段に高くなるという」
「…無駄ですから止めてください」
「でもよぅ」
「片山さんの薬も今田さんの黒魔術も三次元では無理ですから止めてください」


ちょっとしゅん、となった片山さん。
無精ヒゲをはやしたいい大人が。
年下に怒られてしょげるというのもなかなかに珍しい光景だとは思う。
始めの方は確かに僕にも多少の罪悪感があった。
しかし僕も学んだのだ。
片山さんの他を暴力的なまでに無視してぶっ飛んだ思考回路と、それを可能にする無駄なポジティブシンキング能力を。



「だいたい、片山さんこの前の爆発で床ぶち抜いたの覚えてな」
「おぉそうだ!三次元で無理な薬や黒魔術も二次元にいけば可能になるぜィ山田青年!!」
「僕の話聞いてます?」
「いンやぁ、山田青年のおかげで次の実験へのヒントが掴めた!礼を言うよ山田青年!」
「いやそうじゃなくてですね、」
「…………あ、さては家賃だろ?安心しろィ、万が一爆発してもいいように金は完全防火金庫に入れてある」
「知ってます」



ご丁寧に封筒に入った状態で金庫にinしていたらしい家賃。
僕が袋を受け取ってすぐ、早速懲りずに次の実験を始めようとする片山さんに半ば追い出されるように廊下に出された。
そして一言。


「待ってろ山田青年、すぐに二次元に行けるようにしてやるかンな!」


ばちこーん、
飛んでくるウィンクにより発生した星を片手で叩き落として。
バタンと扉の閉まる音に僕はそっとため息をつく。
そしてなぜかドリルの音が聞こえ始めた部屋から目を背けるため、くるりと僕はUターン。



次は上の階に行きます。




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