401号室の桃山くん。



ドアがすだれでおおわれていて、その中央に手作り感溢れる木彫りの表札が飾ってあって、さらにどこで調達してきたのか黒ののれんがかかってる部屋があったら。
それはまごうことなく桃山君のお部屋である。
なんかちょっと間違っちゃった古風なイメージを表現したいらしい桃山君。
桃山君の部屋にはインターホンがない。
もっとちゃんと言うならば、あったのだが壊された、の方が正しいか。
桃山君を訪ねるときは、ドア先である言葉を言わなくてはならない。
そう、あの言葉だ。
まずコンコンとノックをして。


「桃山くーん、たのもー。」
「お、賢吾殿で御座るな!」

ガチャっと開いたドアから出てきたこのわざとらしいまでの古風青年が、この部屋の主、桃山君である。
ちょっと長い髪の毛をポニーテールの位置にちょんと結んで。
最終的に彼は髪を伸ばして髷を作りたいんだとか。


「賢吾殿、源泉徴収で御座るな!」
「桃山君源泉徴収の意味知ってる?徴収の意味しか知らないんじゃないの?」
「何を申すか賢吾殿、拙者あれこれ文献を調べに調べて」
「源泉徴収って支払い金額から一定率金額を天引きして納税することなんだけど。
しかも対象退職金とかなんだけど。」
「………………?」
「わかったわかった、わかんないんだね」
「な、何を申すか」
「わかったわかった」
「……なんか賢吾さん今日ノリ悪い。いつもは付き合ってくれるのに」
「はいはい、また今度ね」
「ちぇーっ」


ちょっとむすくれる彼を軽くなだめて。
そしたら桃山君は着ていたパーカーのポケット(の裏側のひらひらしてるスペース)から、布に包まれた金を出してくれた。


「しめて七千六百万両御座る」
「適当な金額言わない。そもそも桃山君一両いくらだか知ってるの?」
「………まだ調べてない。」
「……っていうか両を円に置き換えても金額おかしいでしょ」


言い返したくて言い返せないのか、桃山君は何か悔しそうな顔をしている。


「はい、確かにもらいました。
…あと話変わるけど、桃山君またレプリカ持って外出たでしょ。危ないからやめてって僕お願いしなかったっけ?」
「………でも鞘から出してない。」
「持ち歩くのなし。わかった?」
「…………うぅぅぅ」


さらに物言いたげな顔になる桃山君。
実は桃山君、最近歴史に大ハマりした影響で昔ながらのものを集めるようになったのだが。
玄関のすだれ、木彫り表札、のれんしかり。
そんなこんなで彼お気に入りの地は京都だったり某江戸村だったりする。
そんな彼は困ったことに、扇子や番傘などに便乗して刀も集めたりしている。
刀と言っても、お土産で買えるようなレプリカでしかないが。
レプリカといっても精巧にできている刀である。
それをまさかの桃山君。
持ってアパート外をうろついたりする。
そして当たり前といえば当たり前か、何度か警察のお世話になっている。
現在厳重注意ということで。
だがしかし確実にお巡りさんにマークされている桃山君である。


「以後、気を付けてね?」
「……精進する」


まだ納得しきっていない桃山君を部屋に置き去りにする形でドアをしめて。


次の部屋に行きます。




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