赤ずきん(5/8)



「あ、晴輝君晴輝君」
「んー?どうした麻子」
「なんか狼来たけど」
「お、やっと来たか」


花畑。
寝転がって空を見上げていた二人はゆっくり上体を起こした。


≪先輩、赤ずきんもそろそろ着きそうですよ。あと五分くらいですかね≫
「了解了解」


オペレーターの機械音声に適当に相づちを打って、キョロキョロしながら花畑へと姿を現した狼を見据える晴輝。
その隣にちょこんと座って。
麻子は晴輝の仕事っぷりを観察することに。
赤ずきんではなく狼が来たことに僅かに首を傾げつつ、しかしこちらに気付いた狼は何事もないかのように近付いて来る。
そして数M手前で止まって。


「…お、久し振りだな晴輝。そっちの嬢ちゃんは見ない顔だが…新人か?」



なんて。
異様になれなれしく話しかけてきた。
同時、疑問符大量生産の麻子である。


「え、え?」
「おう狼、久し振りだな。こいつァ麻子ッてンだ、そのうち夢でも会えるようになるだろうからとりあえず知っとけ。
…お前も挨拶くらいしやがれ新人」
「は?え?挨拶?するの?」
「当たり前だろ」
「え、え、登場人物と会話ってしていいの?」
「はァ?」
「え、…登場人物と会話しちゃったら物語変わったりしちゃわないの…?」
「いやンなワケねぇから」
「そうなの…!?」
「当たり前だろ」
「いや当たり前じゃないでしょ!何でそうなるんだかも含めてそんな説明一度も…」
「察せよ」
「無理だよ!」
「無理じゃねぇよ努力しろ、始めから決め付けンな」
「そんな無茶な…」


思わず口をぱくぱく動かして、続く言葉を見付けられない麻子。
そんな会話を聞いていた狼がぽつり、呆れたように呟きをもらした。


「………お前がいかに指導者に向いてないかが伺えちまうな」
「はァ?」
「晴輝、世の中はお前を中心に回ってるワケじゃねぇンだよ。嬢ちゃんが知らないことを教えてやるくらいのことはしてみろ」
「ンなコト言ったってこいつが何を知らないかを俺が知らない」
「何を知らないっていうかほぼ何もわかんないよ!」
「………せめて基礎をだな、」
「物語に入る、修正をする。それ以外に教えることは無ェ」
「その修正の仕方がわからないんだってば」
「………お前もうダメだな晴輝」
「ダメって何だダメって。少なくとも千歳よりはこいつの知識に貢献してるぞ」
「じゃあ訂正する、お前らがダメだな」
「俺を含めるな」
「無理だ」



意外と常識人らしい狼に肩入れしてもらって晴輝と地味な口論めいたバトルを展開してみる麻子だが。
気付けばちゃっかりしっかり何気なく、ごく自然な流れで狼と会話していることにびっくりする。
次第に晴輝vs麻子&狼のバトルだったのが晴輝vs狼に移り変わり、口を挟む暇がなくなった麻子が暫し二人のやり取りを傍観していると、くるん、と狼の顔がこちらを向いた。


「………とりあえずだな嬢ちゃん、ざっくりさっきの疑問に答えると、」
「さっきの疑問……?」
「晴輝に訊いてたろ?ホラ、登場人物と会話したらどうッてヤツだ」
「………あぁ!」
「その質問、大雑把にだが俺が教えてやるよ」


ぽんッと両手をあわせて先程の自分の疑問を思い出せば、何故か登場人物である狼から修正のことを教わることになってしまった。








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