赤ずきん(4/8)


≪千歳先輩、どうでした?≫
「…嗚呼、問題ない。狼については性格もちゃんと戻っているみたいだな」
≪了解です、異常なしですね≫


機械ごし、
交わされる会話は淡々と。


「―――…嗚呼、そういえば、」
≪…どうかしました?≫


ポツリ、珍しく呟いた千歳に薫が聞き返す。


「その狼が、気になることを言っていた。
"最近赤ずきんの様子が変だ"と」
≪様子が変……ですか?≫
「あぁ…、俺も詳しくは聞いていないからよくわからんが…、」


若干訝しげに変化した声音でもって問う薫。
千歳は反射的に、会話をしながら小さく頷く。



≪…………わかりました、後で晴輝先輩たちが狼に接触したときにでも聞いてみます。一応店長の方にも報告しておきますんで≫
「悪いな、頼む」
≪了解です。…じゃあ早速ですみませんけどいつものお仕事を。今の場所からまず西に10Mのところにヒトツ、≫
「………………、」


淡々と、出される指示は的確。

西、西、
太陽があの位置にあるなら、方角はあちらか。

千歳がものの数秒で割り出す答えに、誘導する間もない薫は機械の前で苦笑する。


「…………これか」
≪ありました?じゃあ次はその位置から北に300Mの方向で――…あ、≫
「………どうした?」


途切れた言葉に問うてみれば、機械ごしの声はすぐさま平然を装う。


《あ、いやこっちの話です、双子の反応が出たんですがすぐ消えちゃって…。
嗚呼、晴輝先輩たちが赤ずきんに接触しそうなのでまたあとで連絡します》
「わかった」


ぶつっ、と、
無遠慮に通信が途切れて聞こえていた音が聞こえなくなる。
右手に握る小さな矢に視線を落として、千歳は小さくため息をつく。





「………………、何本、回収すればいいのかを聞き忘れたな」


まぁそのうち連絡がくるだろう。
今のうちにできることはやっておかねば。
矢が刺さっていた位置に、今度は人工とおぼしき羽根を植え込んで。
ぱぱッと光ってしゅるんと消える一連の動作を確認したならば、千歳は方向転換をして。



「北に300Mだったな、」


がさがさ、道なき道を突き進む。








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