赤ずきん(2/8)


見渡す限りの地面はなだらか。
空は快晴、浮かぶ雲は絵本でよく見るカタチもあれば、それより上空のそれは現実世界でもみることができる形だったり。
吹き抜ける風が気持ちよく。
辺り一帯に広がる花畑は見る者の目を楽しませるよう、そこかしこに様々な種類の花弁を咲かせていた。



「す、…ごい、…お花畑…ッ!」


なにぶん花に疎いせい、麻子には咲いている花の種類がわからない。
白い花弁、赤い花弁、紫や青の類いもちらほら散らばっていて、中には見たことのないような花もあった。
ただ一言、きれい、だと思った。


「絵本の世界ッてのは大体こんな感じに現実離れしてる。現実とは違う場所だから当たり前ッちゃ当たり前だけどな」
「晴輝君たちはいつもこんなところで仕事してるんだね…」
「まぁな」


ぐるりともう一度辺りを見渡して。
吹き抜ける風に大きく深呼吸する。
そして決意新たに気持ちを入れ換えて。


「えっと、じゃあまず何をすればいいんだろ?」


こてん、と首を傾げて問いかけてみたならば、晴輝はそうだなぁと腕を組んだ。
その横の千歳は何か思うことがあるらしく、花畑に隣接するようにある森へと視線を送る。


「……俺は狼を。回収も捜索もしとくからとりあえずお前はソイツにメインの仕事を教えてやれ」
「……、おっけ。じゃあそっちは任せた」


ひらりと後ろ手に手を振って森に入っていく千歳。
それにあわせて晴輝も軽く手を上げて。


「………ええと?」
「とりあえず、千歳は狼を探しに行った」
「狼?」
「ホラ、赤ずきん喰うやつ。
物語の修正は主人公の行動だけを正すわけじゃねぇンだ」
「………はぁ。」
「…わかってねぇだろ。そうだな…、今回の場合で説明すっと、
例えば赤ずきんの行動を修正して赤ずきんが婆さんの家にたどり着いたとしても、狂った物語で崖に向かう赤ずきんを心配して赤ずきんを探し回ってるハズの狼を修正しねぇで野放しにしてたら、狼は一生婆さんの家に現れねぇことになる。婆さん家に狼がいなきゃ元の物語と話違ェだろ?」
「……………あぁ、なるほどね」


若干のタイムラグを経てなんとなく理解した麻子は小さく頷いてみせる。
内心でちょっと、そんなことまでするのか、と思ってみたりもして。
要は赤ずきんをお婆さんの家に連れていくだけじゃだめで、狂った物語では赤ずきんにあわせて狼も違う行動を起こしているよう、違う行動をしている人物が複数いる場合はすべて修正しなきゃいけないということか。
なんとなくの理解をより正確に理解するために何度か脳内再生を繰り返し、ようやくしっくりきたところで麻子は晴輝に視線を送る。


「よし、覚えたな。じゃあもう言わねぇぞ」
「は?」
「うしッ、っつーことだから、俺らはとりあえず赤ずきんが来るまでここで待機な」
「えッ。…や、とりあえずって何とりあえずって」
「いや仕方ねぇだろ。お前こそえッって何だよ」
「…え、…だって、赤ずきんは探しに行かなくていいの?千歳さんは狼探しに行ったのに」
「……あンなぁ、狂いの始まりは赤ずきんが花畑突っ切るところから始まンだろ。赤ずきんは探しに行く必要ねぇの、黙ってても花畑に来るンだから」
「…………あぁー…、そういうこt……あれ、でも確か狼も一度花畑に来て赤ずきんと遭遇するんじゃ?」
「んー…まぁそうなんだけど。
…千歳は、狼もそうだけど若干他の用事も混ざってるから気にすんな」
「…他の用事?」


若干口を濁すように言う晴輝に麻子は思わず首を傾げた。
絵本の世界に一体何の用事があるというのか。
説明を求めるよう視線を送る麻子に、困った様子の晴輝はどうしたものかと暫し考え込む。



「晴輝君?」
「……今はまだ知る必要はねぇンだよな」
「………まだ?」


ポツリと呟く彼に聞き返してみれば、晴輝はこくんと頷く。



「……、まぁ別に隠す必要もないから言う分には構わねぇンだろうけど……お前は頭が悪そうだし、言ったらきっと混乱して終わるだけだろうから今は言わねぇ」
「…うん、?」


口を開いた晴輝は何故か神妙そうに頷いた。
なんか今、さりげなくというわけでもなくあからさまにバカにされた気がしてならない麻子であるが、確かに今知る必要がないなら知る必要が出てきた辺りで説明して頂けた方が覚える分には有難い。
納得がいかないながらも説明する気が皆無と化した晴輝を見て、麻子は小さくため息をつく。

、と。
その時。




≪あー、あーッ、先輩聞こえてますかー?≫



突如耳元で、知った声が響いた。








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