宣戦布告は鮮やかに 


どばーん。
勢いよく部屋のドアが開いたと思ったら、バタバタ音をならして部屋のなかに予想外の人影が入ってきた。


「さてさて問題ですよ託守くん、今日2/3は一体何の日でしょうかー?」


手を自らの腰に当て、恥ずかしげもなく仁王立ちしながらびしっとこちらに人差し指を向けてくる人物。
それは、
前髪の左側のみを側面でピンでとめ、防寒策として衣類全てをもこもこに身を包んで、海苔やら卵やら野菜やら豆やらを詰め込んだビニール袋を引っ提げて、インターホンも押さずに堂々と家宅侵入をしてきた、全長160pにも満たない身長の、
姉である。


「…………怪獣麻子が家に押し掛けてきた日」
「違う!っていうかあたし怪獣じゃないッ!」
「嗚呼ホラ暴れンな麻子、床が抜ける」
「そんなに重くなーいッ!」
「…ココア飲む?」
「飲む飲むー」


ころッと。
丁度飲んでいたココアを見せると機嫌をよくする麻子。
一ノ瀬託守は彼女の弟にあたるのだが、どちらかといえばもちろん、自分の方が精神年齢が高いと断言し、適度にからかえるくらいには姉を軽くあしらえる立場にいる弟である。
託守がココアを作るべく台所に向かうと同時、こたつに潜り込んだ麻子に彼はビニール袋を託される。
中身はさっきも述べた通り、海苔やら卵やら野菜やら豆やらだ。
豆はいくつもの小分け袋に入った状態のもの。
数があって小さいから袋ごと投げても散らからず、投げた後に回収して食べることができるようになっているものだ。
これで麻子が何をしようとしていたのかは大方検討がつく。
2月3日。
今日は節分の日である。
当然豆は豆まき用、その他は恵方巻きでも作るつもりだったんだろう。
ちゃっかりその他お菓子の類いも買い込んできたらしい麻子はお菓子パーティーでもするつもりなんだろうか。


「ねぇ託守ー、おにいはー?」
「知らね、朝方出てって帰ってきてないけど」
「……む、それじゃあおにいを鬼役にして豆まきする計画が台無しじゃん」
「勝手に計画してんな」


ぶつぶつ文句をたれる麻子の目の前にココアの入ったマグカップをことりと置いて。
飛び付く姉の前に、彼女の買ってきたお菓子を広げる。
しばらくはそんな感じでダラダラ身辺報告なんぞをしあいながら時間を潰して。
そのうち暇だからという理由で豆の入った袋を破って鬼役兄貴が帰ってくるのも待たずに豆の袋をあける麻子に、託守は思わずため息をつく。


「お前豆袋から出すな」
「何を言うの託守くん、おにいが帰ってきたら速やかに撃退できるように準備しているのよお姉ちゃんは」
「まずそのふざけた口調を直せ。ついでに豆を袋にしまえ。袋から出した豆投げたら兄貴怒るぞ」
「お姉ちゃんにむかってその口の聞き方はなんだね」
「………俺の"お姉ちゃん"は少なくともそんな口の聞き方をしてないからお前に従う義理はねぇ」
「…ちぇーっ、なんだよそれー。託守は外ーっ、託守は外ーッ」
「投げてくんなッ!つか掃除すんの誰だと思ってやがる!まいた豆どうしろって言うんだお前はッ」
「拾って集めて豆腐でも作ればいい」
「よしお前にがり買ってこい。」
「やだよなんであたしが」
「嫌ならまくな阿呆」
「阿呆とはなんだッ」
「阿呆に阿呆と言って何が悪い!阿呆だから阿呆だ阿呆!」
「託守口悪い!」
「誰のせいだコラァァア!」


会話の内容が変な方向に折れ曲がってなにやら喧嘩勃発。
互いに豆をわし掴んで、臨戦態勢に入ったその時だった。


ガチャッ。

玄関の扉が開く音が聞こえてピタリと二人の動きが止まる。
ゴリゴリゴリゴリゴリゴリ…、
なんて、何かを引きずるような謎の音を響かせながら部屋につながる通路を進んでくる気配。
そして部屋のドアの前で音がやんだと思ったら、直後。
勢いよく開かれたドアと共に、鬼の面を被った男が姿を現した。
彼は持っていたバットを頭上に振りかざし…、


「悪ィ子は居ねえかァァアアア!!!」


高笑いと共に部屋に入ってきた。
当然、部屋にいた姉弟のするべきことは決まっている。
互いに目の前の相手のために掴んだ大量の豆を、

容赦なく場違いな鬼へと投げつける。



「「ナマハゲ関係ねーだろうがッ!!」」
「痛ッ、痛ててててて豆多くねぇ!?つか何で袋から出してンだよ!
痛てててててお前ら加減ッてモンを知れッ!」
「うるせぇッ!」
「もとはといえばおにいが外出してたのが悪いッ!」
「意味!意味わかんないからな!俺が外出してたことと豆の量と何の関係があるんだよ!?」
「答えてやる義理はねぇ!」
「鬼は外鬼は外おにいは外ーッ!」
「麻子ちょっとまておにいまで外に出すな!
つか待てこれ以上豆をまくな!袋から出すな小分け袋ごと投げろ!」



最終的に、持ってきたバットを放り投げて、床に散らばった豆を拾っては反撃を繰り返してくるような精神年齢の低さを伺わせたその鬼の名は、
部屋中に散らばった豆にわなわな肩を震わせたその男の名は。
この兄弟の長男、
一ノ瀬正樹という。



「お前らァァア…、豆まく時は散らかるから袋から出すなッて毎年言ってきただろうがァァアアア!!!」


凄まじい怒号とともに爆発した一ノ瀬長男は、そこら辺に放ってあった新聞紙を素早く丸めて凶器を作ると、
何のためらいもなく二人の頭へと降り下ろした。





とある日のアパートの一室にて。



(……オイもうコレどうすんだよ、こんな大量の豆散らかして…)
(…拾って洗って豆腐でも作ればいい)
(…安心しろ兄貴、きっと喫茶店ににがりくらいある)
(いやいや買ってこいよ)
(兄貴/おにいが行ってらっしゃい)
(なんでだ!)



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