はじめましてのときのこと



それはちょっとだけ前に遡るお話。


ピギャリグゴゴガガガァァアアアッ!!!


突如として、アパート【コーポ・マウンテン】の貸し部屋の一室で、そんな音が響いた。
ふとと顔を上げて辺りを見回すのは、ニット帽を被った青年。
どうやら謎の奇怪音は、インターホンのキャッチャーから聞こえてきたようだ。
部屋の主は椅子からのそっと立ち上がる。


「…………、誰か来たのかな。はーい」


そして玄関まで赴き、ガチャリとドアを開けたならば。
そこには面識のない青髪の青年が立っていた。
一体いつから伸ばしているのかわからないくらい長い髪を後ろで一本に結わえた彼。
そのような青年に部屋を訪ねられるいわれはないのだが。
一瞬思考停止した彼、林田信太郎が、ヤケに驚いた様子の彼と、その腕に携えられたモノとを見て即座に状況を把握する。


「あ、回覧板ですね、ご苦労様です」
「う、うむ。誠司のところからだ」

誠司、というと片山さんのところか。
ハッとなって林田に返答する青年は、おもむろに回覧板を差し出した。
林田は差し出されたそれを、礼を言いながら受け取って。
まだ僅かに呆気に取られている様子の彼に、林田は苦笑する。


「驚かせてしまってすみません、うちのインターホンちょっと調子が悪いみたいで。次からはドアをノックしてくれると嬉しいです」
「あ、ああ、わかった。……それにしても酷い音だな、調子が悪いというか…」
「一度専門職の方に来てもらって見てもらったんですが…、インターホン事態には異常がないみたいなんですよ。原因が不明なので諦めてます」
「そう、なのか…」


青年の視線が林田の背後をちらりと見て、何でもないようにこほんと咳払いをする。


「…そう言えば初めましてですよね?新しく入居された方ですか?」
「あ、いや、…何と云うか…、居候と云うべきか、」
「居候?…嗚呼、それで片山さんのところから回覧板を。ということは今田さんと一ノ瀬さんは部屋にいなかったんですね」
「???」


色々と自己完結するクセのある林田は、よくわかっていない青年をよそに一人納得する。


「有難う御座います、…えぇと、お名前は?」
「名前、か。俺の名はアラルド=フィル…いや、今は王子と呼ばれている」
「王子?……嗚呼なんだ、じゃあ佐倉さんの所の噂の王子君ですね。山田さんからお話聞いてますよ、ゲームがお好きなんだとか。すると片山さんはお友達ですかね」
「???う、うむ、誠司とは仲良くさせて貰っている」
「馴染めているようでなによりです」


不思議な言葉遣いをする子だ、なんて思いながら、林田はそう言えばと口を開く。


「僕は林田信太郎といいます。これから宜しくお願いしますね王子君」
「信太郎、だな。覚えておこう」

こくりと頷いた王子は続けざま、林田の後ろを指差して問う。


「時に信太郎、そちらの二人の名は何という?」
「そちらの二人?」

王子の指差す方向を見ても、そこには誰もいない。
玄関に写真が飾ってあるわけでもなく、ペットがいるわけでもない。
王子が示す二人がよくわからない林田は、頭上にクエスチョンマークを浮かべる。


「………ええと?」
「…いや、見えていないならいい。要らぬことを聞いたな、悪かった」
「……はぁ、」


そう言って、王子は林田の背後、先ほど視線を向けた辺りに向かってエアデコピンのような動作をした。
パシュッと中指が弾かれて、


「過ぎた悪戯はしないことだ」

ぽそりと呟く王子。
またもや頭上にクエスチョンマークを浮かべる林田だが、王子はそんなことは露知らず。

「信太郎、何かあったら相談してきても構わぬからな」
「え、あ、はい、?」


じゃ、と。
それだけ告げて、片手を上げて去っていく王子に、目をぱちくりさせた林田は咄嗟にまたねと声をかけた。





ミラクルメイカー王子君


(それから約一週間ほどの期間限定で)
(噂の林田宅のインターホンが)
(ピンポーンという軽やかな音を取り戻し)

(その王子の功績がまた)
(アパートの噂と化したらしい)



―――――――
林田さんと王子のお話というリクエストでした!
この二人絡ませにくいということに気付いたとっぺです(笑
楽しんで頂ければ幸いです。
1000を踏んでくれた夏目氏へ捧げます!
リクエスト有難う夏目氏!

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