揺れる尻尾は何処へ行く?



「…ごめんなもちごめ、俺が一人暮らしでもしてれば飼ってやれたのに」


ボクを腕に抱えながら晴天下の路地を行くこの人は、名前を"ハルキクン"という。
昨日の冷たい雨の中、ずぶ濡れのボクを見付けて迷わず拾ってくれた優しい人だ。
一夜明けた今日。
テンチョウ、という人に約束通り、ボクを元居た場所に戻してこいと言われてこうして歩いている訳だが、ハルキクンはそれに対して不服な様子だ。
時々聞こえてくる溜め息にボクは小さく鳴き声を上げる。
大丈夫だよ、の意味を込めて。
ボクはテンチョウの言っていることが正しいのがわかる。
それに、元々野良猫のボクだ。
外で生きることには慣れているし、ボクとしては昨日一晩雨宿りさせてくれただけでも大満足だったりする。
食料とかだってちゃんと、忍び込んで調達したり、貰えるアテもあるから大丈夫。
だけど、そんなことは知る由もないハルキクンは、さっきからずっとこの調子。
どうにかしてボクを飼う手段を考えてくれたりしている。
ボクはそんなハルキクンに、"ありがとう"って言いたいんだけど。
でも、ボクの口から出るのは決まって"にゃー"という意味を持たない音ばかり。ありがとう、も、大丈夫だよ、も、何一つ伝えることが出来ないというのは、なかなかにもどかしいものだ。


「……本当は、お前を拾ってくれる奴でも見付けてやれればよかったんだけどな」

嬉しくなってまた"にゃー"と鳴く。
しかめっ面だったハルキクンは、ちょっと笑ってくれたみたい。
そうしてようやく、ハルキクンがボクを拾ってくれたあの路地裏に着いた。
そっと、地面にボクを降ろしたハルキクンは、ボクの頭を数回撫でる。


「…じゃあなもちごめ、元気でやれよ」


返事代わりにこれまた"にゃー"と鳴き声を上げて。
名残惜しそうに去るハルキクンを、ボクは最後まで見送った。




有難う、って、
何時かきっと伝るよ。




(大丈夫、)
(そうなる日まで)
(ボクは毎日、キミに会いに行くからね)




―――――――――
みぃこ様より晴輝ともちごめのその後、とのリクエストでした。
元々は誰かに飼わせようかと思っていたのですが、気変わりしてやっぱり野良猫のままにしてしまいました。
楽しんで頂けたら幸いです、リクエスト有難う御座いました!

⇒オマケ

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