いいひとわるいひと



浜田とうっかり、セックスをしてしまった。いやほんとうっかり。でも最初から、いつかこうなるんじゃないかって思っていた。別に、そんなことがあっても構わないからここに来た。男女が傍に居たから起こった、怠惰なセックス。なりゆきの、自然なこと。

お互い裸のまま横たわって、私は疲れたなあなどと考えながらぼんやりとしていた。浜田は何も言わない。セックスしたからと言って、甘い雰囲気なんてあるわけがなかった。行為が終わってから、浜田は触れて来ない。私たちは恋人ごっこすらしないのだ。ただその行為をしただけ。


「浜田、やっちまったって思ってるでしょ」
「…少しだけ」
「後悔してる?」
「……いや、そんなに」
「正直だな」


思わず笑ってしまった。そんなに、って、ちょっと後悔してるんじゃん。浜田はやっぱりいい人だった。悪いことできないんだなあ。だって、好きな子がいるんだもんね。


「お前は?…嫌だった?」
「嫌だったらそもそも男の家に転がり込むようなことしないよ。いま好きな人もいないし」
「そっかあ」
「だからお互い気にするよーなことは何もないと思うんだけど」
「まあ、そーだネ」


なりゆきの行為は初めてじゃない。好きな人としかしない、なんて、そんな清潔なことを言うような性格じゃない。だから私は本当にどうでもよかった。浜田と寝ても寝なくても。浜田が、浜田であってもなくても。でも私を拾ってくれたのは浜田なのだった。


「ちょっとさむい」


のそのそと起き上がって、無造作に放られたスウェットを拾う。いつも寝る時に着ているスウェットに腕を通すと、部屋にもやもやとあった違和感はなくなったような気がした。


「確かに、今日ちょっと冷えるな。コーヒー作る?」
「作る」
「ちょっと待ってて」


浜田は立ち上がって、お湯を沸かしに行った。その様子からはもう、罪悪感とか後悔は感じられなかった。部屋を横切りながら浜田も服を着て、この狭い部屋は元に戻った。でも今までと違うのは、その背中の窪みの感触を、私が知っているということだった。




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