気ままに暮らす



私はこの部屋に来てから家事をひとつもしていない。料理も掃除も洗濯もゴミ出しも、全部浜田がやっている。私がそれらをまったく出来ないわけではない。男と住んでいたときは苦手なわりにやっていたのだ。それでも外食やコンビニ飯は多かったし、部屋はあまり綺麗ではなかった。しかし浜田は「ひとり増えたくらいじゃそんな変わらないぞ」と言って笑う。むしろごはんは作りやすいと。なんだこの人スーパーマンか。
というわけで今日も浜田は学校とバイトに行き、私は家でごろごろしている。


「ひま」


ゲームにもすっかり飽きて、PS3のコントローラを投げ捨てる。浜田のだけど。午後七時。浜田が帰ってくるのにまだ5、6時間はある。ひまひまひま。そうだ。
厚手のパーカーとマフラーで防寒対策をする。玄関の鍵を閉めて、久しぶりに外に出た。浜田の働いている居酒屋はこないだ場所を聞いた。



「生中で!」


カウンターの向こうで浜田がぎょっとした顔をした。面白い。にっこりと笑ってみせると、渋々といった感じで近づいてきた。


「…なにしてんの」
「働く浜田を見に」
「まぁいいけどさぁ…」


ジョッキを運んできた男の子が、「浜田の彼女さんスか!?」と目を輝かせた。


「違う違う。近所なだけ」


まぁベッドで寝るか床で寝るかの距離なんですけどね。(ちなみに私が床である。居候だから。浜田はベッドで寝ろと言ったけれど、それは断った。)
男の子は「そうなんすかー」と言ってそれっきり私には興味をなくしたようだった。

働く浜田を見ながらビールを飲む。それだけのことだったが、ひとりで部屋にいるよりは楽しかった。浜田の友達だから、とサービスで出してもらったポテトをつまみながら、あっちこっち動き回る浜田を目で追った。ら、ひとりの女の子に気づいた。背が小さくて黒髪の、大人しそうな女の子。


(浜田、顔に出過ぎ)


浜田の様子を見ていたら確信が持てた。浜田がそばを通りかかったときに、Tシャツをぐっと掴んで引き止める。


「うわっと。どうした?」
「浜田、あの子のこと好きでしょ」
「な、!」


げええ、と顔に書いてある。三杯目のビールを飲みながらふふふと笑うと、浜田は観念したように頭を掻いた。


「好きだよ」


あ、逃げられた。
そうか、浜田、好きな子いたんだ。


(…なら、私が居候してるのマズくない?)


いや、だからと言って出ていくアテもない。追い出さない浜田が悪い。(ひらきなおり)
浜田がバイト上がるまで待とうと思っていたけど、あの子に勘違いされたら可哀想だもんね。先に帰ろう。


「あれ、帰んの?」
「うん。バイト頑張ってねー」
「おー。気ィつけてね」


アイス買って帰ろっと。お風呂入って炬燵でアイス。楽しみだ。




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