ピーマン



「好きなだけいていーよ」と浜田は言った。正直言って出ていく時期の見通しとかついてないんだけど、と言うと、別に構わないと言った。変な奴。


「浜田ってさー、病的なお人好し?もしくは変態?」
「なんで変態」
「保護欲を満たして興奮したりすんの?」


しないから!と言って、浜田は上手にフライパンを操った。フライパンの中でお米がじゃあじゃあと舞っている。ごま油の匂いが食欲をそそる。窓から太陽の光が差す。清潔な昼下がりだ。

浜田の部屋にお邪魔して五日が経った。まったくの手ぶらで来たから着替えを始め、身の回りの物はなにひとつ持っていなかったのだけど、最低限必要な物は居候二日目の昼間に買いに行った。二日目以降、私はほとんどこの部屋を出ていない。浜田は大学に行ったり寝坊をして授業をすっぽかしたり、友達と飲みに行ったりしていた。でもその一日以外は毎日バイトに行っている。浜田は意外にも苦学生だった。私はそんな苦労人に甘えてニート生活を満喫している。


「そういえば仕事は?」
「バイトならここに来る前に電話かけてソッコー辞めた。クズ野郎と同じだから」


言わずもがな、クズ野郎とは私を殴ったあいつである。この部屋に来た日、浜田が氷水を入れた袋を親切に作ってくれたおかげで頬の腫れは引いた。間抜けな湿布ももう必要なくなっている。
家賃や生活費はクズ野郎と折半していた。だから突然私がいなくなったことによってあいつは野垂れ死ぬかもしれないんだハッハーざまあみろ。


「その顔怖いんだけど…」
「うるさいよ。ねぇお腹すいた!」
「はいはいもうできましたヨ」


幼児のごとくスプーンを持って待ち構えていた私の前に、綺麗な炒飯が置かれた。ご丁寧にもドーム型に盛られている。浜田は芸が細かい。


「いただきます!!」


声をあげてスプーンを突き刺すと、ご飯の山がほろっと崩れた。ちゃんとパラパラにできている…。そして美味しい!この五日間、浜田の手料理を食べてきたのだけど、どれも美味しかった。
浜田すごいね、と顔を上げると、浜田は一人で笑っていた。


「え、なにニヤけてんのきもいんだけど」
「…ごめん思い出し笑い……」
「きっも」
「うるへー」
「なに思い出してたの?」
「高校ン時さ、仲良かった奴らがメシのたびに『いただきます』ってちゃんと言ってて、それがすっげー気持ちいい挨拶でさ。今のお前、高校生男子と同じテンションで『いただきます』って言ってたぞ」


成人女性がやめてくださいよ、と笑う浜田になんだかイラっとしたので、浜田のお皿に集めたピーマンを入れてやった。


「ちょ、ピーマン食べろって」
「嫌いなんだもん」
「好き嫌いするなよー」


でもその日から、食卓にピーマンが出ることはなかった。




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