不意打ちのイエス


お昼休みは、最初は厄介なものだった。いつも一人で食事をする私に、心優しいクラスメイトの何人かがわざわざ席までやって来ては一緒にどうかと誘った。しかし二週間もすると、私に声をかける人はいなくなった。それはお昼休みに限ったことではなく。そうなってようやく、私は安心して学校生活を送れるようになったのだった。

…けれど、今日は。


「草壁、それなに食べてんの?美味そー!」
「…普通にパンだけど」
「それはわかるって!何パン!?」
「クリームパン…」
「クリームが入ってんのかー。俺、惣菜パンのが好きだけどたまには甘いのもいいよなー!」
「あ、そ…」


なにこれ。疲れる。
この間すこし話して以来、田島くんに何故だか絡まれるようになった。もしかして一度話しただけでお友だち認識されたのだろうか。だとしたらそれはすごく困る。というか何も考えていないのか…?


「つかさー、なんで草壁っていつも一人でメシ食ってんの?」
「っ、たじま!」


堪り兼ねた様子で、田島くんの襟首を浜田くんが掴んだ。うおっ、と体勢を崩した田島くんは、なんだよーと唇を尖らせている。そんな友人を無視して、浜田くんは「ごめんなー」と謝ってきた。


「別に…」
「草壁さん、騒がしいの嫌いっしょ?捕まえとくなー」


ほらもー寝るんだろーと言って、浜田くんは田島くんを引っ張って行った。一人になって、緊張が解ける。食べ終わったパンの包みをなるべく綺麗に畳んで、コンビニの袋に戻した。…浜田くんにも、名前を呼ばれた。ここ数日、名前を呼ばれることが格段に増えている。事の発端はすべて、泉くんだ。


「…睨むなって」


放課後、部活に向かう泉くんが話しかけてきたので視線を向けると、泉くんはまぁまぁといった仕草をした。


「田島くんに絡まれてるの、知ってるでしょ」
「おー。最近よく話してんね」
「…泉くんなら彼を止めると思うんだけど」
「うーん」


泉くんは少し考えるような素振りを見せた後、意味ありげにニヤリとした。なにそれ。


「俺は止めねーよ」
「っ、なんで」
「んー、田島や浜田や、三橋とも喋ってみてほしいから、かな。よかったら他の奴らも紹介するけど」
「し、しなくていいよ!」
「まぁそのうちな」


泉くんの真意はよくわからないけれど、気づかないうちに、事は私にとって良くない方向に進んでしまっているようだ。私は私を保たなくては。このまま流されてしまっては、駄目だ。


「つーか三橋と喋ったことある?」
「な、ないけど」
「ふーん。三橋ー!」
「えっ!ちょっ」


大きな声にびくりと肩を震わせた三橋くんは、手招きをする泉くんに促されてひょこひょこと近づいてきた。


「う、泉くん、な、なに?」
「同じクラスだしトーゼン知ってると思うけど、草壁。頭良いから勉強わかんないとこあったら教えてもらおーぜ」
「へ、」
「草壁、サン、よ、ろしく…お願いシマス…」


語尾にかけて声のボリュームがどんどん下がっていった三橋くんは、目を泳がせたままペコリと頭を下げた。「あ、は、はい」その挙動不審さに面食らってしまった私は、ついイエスの返事をしてしまった。そう気付いた時には、泉くんが「お、やった」と呟いていた。


「っ!ち、ちが」
「じゃあ俺ら部活行くから。また明日な!」
「草壁サン、じゃ、じゃあね」


っしゃ行くかー!お、おう!
そう、仲睦まじくバタバタと駆けていく二人の背中を、私は唖然として見つめることしかできなかった。
これは本当に、まずいのではないだろうか。




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