まわり道
「泉クンちょっとこれを見てくれたまへよ」
お昼休み、寝ようとしている泉の机にバサっと雑誌を置くと、泉は心底迷惑そうな顔であたしを見た。
「なんだよ」
「ここ!世の女性が好きな男の人に求めること一位は優しさだってよ!泉クン大ピンチだね!」
「馬鹿はお口チャックな」
「ヒドい!!!」
じゃあオヤスミ、と顔を伏せようとする泉の後頭部を雑誌で叩いてやると、イラッとした視線が上目遣いで送られてきた。せっかくの上目遣いなのに可愛くない超怖い。
「ごめん痛かった…?あはは」
「痛かった」
「いふぁいいふぁい!ごめんなふぁい!」
鼻をむぎゅっとつままれてうまく喋れない。仕返しをするとは泉孝介にはやはり優しさが足りない。ハイチュウを献上して許してもらった。
「泉はもっとあたしに優しくすべきだとおもう。優しくない」
「別に普通だろ」
「全然優しくない!!!」
泉はもぐもぐと口を動かしながらつまんなさそうな顔をしている。まずその表情から直してくれ。
「んじゃどうしたらいーの。具体的に言って」
「昨日前髪切ったからさ、今日はなんだか可愛いね、とか言って」
「言うか馬鹿」
泉の指が頬に伸びてきて、今度はさっきより軽く、むに、とつままれた。またさっきのように痛い目に遭うのかと、思わず身構える。ひいい泉サマご勘弁を。
と思っていたら、その指が肌を滑った。
「お前はいっつもかわいーよ」
!!!??
頬にぼぼっと熱が集まったのがわかった。ちょっと待って恥ずかしい。つーかなに言ってんの泉。なにその真顏。なに言ってんの?えっ、
「ふあ、はあああ!?」と、間の抜けた声が漏れてしまう。泉はするりと手を離して、机に伏せて寝る体勢をとった。
「いず、え、え、ちょっ」
多分いま、あたし真っ赤だと思う。唖然としたまま取り残されて、どうしたらいいのかわからない。一人でテンパっていると、泉の丸めた背中が小刻みに揺れていることに気づいた。…え。
「…あの、泉クン」
「く、く、」
「笑ってる…!!」
「ぶっは!」
あたしが近づくと、堪えきれずという風に吹き出す泉。てめえ。
「からかったなんてヒドい!!」
「お前動揺しすぎ…!ははっ!」
大爆笑する泉が腹立たしい。もう知らないバカ一生寝てろ。ていうかあたしもなんでこんなにテンパってしまったんだ消えたい。
からかわれたとわかったあとも鳴り止まない心臓の音が煩わしい。ああもう、厄介なことに気づいてしまった。気づかされてしまったよ。泉のバカやろー。
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