眩むほどに美しい約束


泣くもんか、と思ったけれど、布団にぐったりと横たわる彼の姿を見てしまったらもう、駄目だった。こんな馬鹿の為に泣くなんて、こんな馬鹿のせいで泣くなんて、くやしい。くやしいけれど、でもどうしようもないくらい好きなのだ。大切なのだ。


「…ごめんな」


銀ちゃんは横になったまま、困ったような顔をしている。ゆらりと腕が伸びてきて、大きな手のひらでぐしゃぐしゃに髪をかき混ぜられた。その拍子に堪えていた涙がポトリと、膝の上で握りしめた拳に落ちる。噛み締めた唇を解かせようと銀ちゃんの指先が下りてきたから、それを避けるように俯いた。


「約束破って悪かった」
「っ……」


ちがう。
謝るのは銀ちゃんじゃない。
毎度毎度、守るのが難しい約束をさせる私が悪いのだ。わかっているのだけど、でも。


「…無茶しないって、怪我しないって…言ったのに…っ」


やっぱり私の喉は、こんな言葉を絞り出してしまう。銀ちゃんの眉が歪むのが見えた。ごめんね。そんな顔させて、ごめん。
銀ちゃんが万事屋って仕事をしていることも、曲がったことが嫌いな質なのも、困っている人を放っておけないその優しさも、全部知っているのに。理解して、受け入れなくちゃいけないのに。こうして銀ちゃんが血を流して帰ってくるたびに、私はどうしても泣いてしまう。責めて、しまう。


「もう無茶しねェから。な、許して」


私を安心させるための、守れない約束が憎い。そんな嘘を吐く銀ちゃんが憎い。見守る強さのない、情けない自分が憎い。


「銀ちゃん…そばにいてよ…」


どこにも行かないでそばにいて笑っていて。いちご牛乳でもパフェでもなんでも買ってあげるよ、私。だからここにいてよ。私の知らないところで血を流さないで、もしかしていつか此処に帰ってこない日が来るんじゃないかって、どこかに行ってしまうんじゃないかって、怖いんだ。


「私を、置いていかないで…」
「なんか縁起でもねーこと考えてねェ?オイオイ勘弁してくれよ、ったくよォー」


カラカラと転がる銀ちゃんの笑い声が白々しく響いて、私の涙腺は更に大粒の雫を産み出した。「涙の大売り出しですか」と笑った銀ちゃんは、私の眼を覗き込むようにして見つめて来た。


「もう怪我しねーから。な?」


ああまた言わせてしまった。何度守れない約束をすれば、お互い気が済むのだろう。心の中でごめんなさいと謝る。でも私の涙は浅ましく、その言葉ひとつで止まるのだった。約束をさせて自分はその時に安心して、でもその約束は守られない。その度に私は失望して、銀ちゃんは約束を破ってしまったことに苦しむんだ。いつもいつも。私の何倍も銀ちゃんは苦しんでいるに違いない。そうして彼を傷つけてまで、私は自分の安心を得るのだった。そうでないときっと、この人と居られない。お互いに報われないなんて、何度も思い知らされているというのに、私たちは離れることができない。



title:シュプレヒコール

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