まるい飴玉
※変態くさい
銀ちゃんを見ていると、ときたま視界が揺らいで自分で驚く。肌が熱くなって、心臓がどきどきしてしまう。身体がはち切れそうなくらいに銀ちゃんに伝えたい気持ちが湧いてくる、でもそれをうまく言葉にできないからもどかしくて涙が滲んでくる。そんな風に。私は銀ちゃんに恋をしているのだ。
「お前ってなんでいつも泣きそーなの?」
ずいっ、と覗き込んできた銀ちゃんに驚いて、思わず大げさに飛び退いてしまった。「うっわー、傷つくんですけどォー」と頭をぼりぼり掻く銀ちゃんに、微塵も傷ついた様子はない。
「俺お前になんかしちゃった?」
「ち、ちが、」
「だよねぇ思い当たることねーもんよ。ならいーや」
銀ちゃんは私の頭をわしわしと掴むように撫でる。髪がぐちゃぐちゃになるのも気にならないで、私は私の中身までもぐちゃぐちゃに掻き混ぜられているような感覚がした。少し触れられただけで、こんなにも。うずくまりたいような、叫び出したいような。あなたを想うだけで臆病にも乱暴にもなる。
何も言えずにただ見上げていると、銀ちゃんもじっと見つめ返してきた。心臓が鳴る。顔がどんどん熱くなって、見ていられなくなって目を逸らすと、「なァ」と声が降ってきた。
「銀サンどエスだからさぁ、そんな目ェされっとムラムラするんですけど」
「へ?」
再び近づく銀ちゃんの顔。でもさっきよりずっと近い。鼻先が触れてしまいそうだ。逃げ出そうとしたけれど、それは両肩を掴まれていることによって阻止された。
「ぎ、銀ちゃん」
「…お前の目ってどんな味すんのかな」
「え」
「甘そうだよな。飴玉みてェ。……味見してい?」
「え、え、ちょっ」
銀ちゃんの舌が無遠慮に伸びてくるのが見えた。なにを、と思って咄嗟に目を瞑ると「あっテメ」と怒られた。なんで。
「ちょっとだけ!ちょっとだけだから!先っぽだけ!な!」
「ななななななななにそれ」
「ちょっとだけ我慢してて」
「へ、へへ変態!」
「はーい」
こんなの嘘だ!いや、マジだ。この人マジだよ。視界いっぱいに銀ちゃんの顔があって、それはなんだか初めて見る顔で。「目、開けててな」そんな色っぽい声で言われたら、私。すぐに潤う私の眼球はみるみるうちに濡れて、それを見た銀ちゃんはゴクリと喉を鳴らした。そしてまた舌先が近づいてくる。目、開けないと。開けてないと。惚れた弱みとは恐ろしいもので、私は従順に銀ちゃんの要求に応えてしまう。こんな変なコトでも。
「っ!」
銀ちゃんの舌がちろっと白目を押して、反射的に瞼を閉じた。心臓はバクバクいっていて、その鼓動に合わせて瞼の裏で光が渦を描く。少し落ち着いてからそろりと目を開けると、満足げな銀ちゃんがいた。
「いやァしょっぱかったわ!」
「当たり前だよ…」
「ぐにっというか、ぶにっとした」
がははと笑う銀ちゃんを見ていると、なんだか気が抜けてしまう。さっきまでの妙な空気は何処かへ去っていて、銀ちゃんはいつもの銀ちゃんだった。と、思ったらぱしりと手首をとられる。
「…でも甘い気がしたんだけど、」
「え?」
「他に甘いとこあるか探させて」
意味深な言葉と共に、銀ちゃんはニヤリと笑う。なにその悪い顔…!ずいずいと迫ってくる顔から距離をとりつつ、でも私はひとつだって拒否できないんだろうな、と大きすぎる恋心を責めた。
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