リトルウィスパー



何度もノックし続けていると、がちゃりと開いた扉。その向こうで眠そうに目を擦るタクトは、私の姿を認識するなり驚いたようにぐんと目を見開いた。そんな隙を突いて、彼の脇からするりと部屋に滑り込む。


「え、ちょっ…どうしたの!?」
「一緒に寝て」


部屋の奥にぐんぐん進み、勝手に潜り込んだタクトのベッドは今まで彼が寝ていたからほかほかと暖かい。タクトはベッドの柵から困ったように顔を覗かせると「それはまずいよ…」と情けない声を出した。


「何がまずいのよ」
「いやっ、だってそんな…!」
「いいから寝てよ」


慌てているタクトはなかなかベッドに入ってこようとしない。痺れを切らして、そんなタクトの腕を力強く引っ張った。バランスを悪くしたタクトの顔がもう少しで布団に埋まりそうだ。


「ちょっ、ちょっと…!」
「隣の部屋に聞こえちゃうよ」


私の言葉に、タクトはむぐと口をつぐむ。壁が薄いこの寮は隣室の異変がすぐにわかるのだ。私が部屋にいることがあの寮長にばれたら、どんな罰が待っているかわからない。
観念したようにベッドに入ってきたタクトのおかげで、私の体がより温もりに包まれる。タクトの首元にすり寄るように頭を寄せると小さなため息が聞こえた。


「失礼だなぁ…。私と寝るのがそんなに嫌?」
「嫌なんじゃないよ。むしろ嬉しいっていうか…でも困るっていうか…」


ぶつぶつ言っているタクトなんて無視。瞼を閉じると、タクトが頭をそろりそろりと撫でてくれるのを感じた。その優しい手があまりに心地よくて、隠していた弱い自分が少しだけ溢れ出す。

タクトのシャツを握りしめた手をそっと外して、タクトはその両手で包んでくれた。「…怖い夢でも見た?」柔らかな、あやすような声。そっと瞼を持ち上げると、私の視界はぼやけて揺れていた。
タクトが優しいせいで、私はタクトの前でうまく強がれない。どんなに意地を張ってみてもタクトはすぐに私の弱さに気づいて、まるごと全部受けとめてしまう。そんな彼に甘えてしまう自分が大嫌いなのに、でも私はタクトの傍から離れられないのだ。


「ご、め……っ」
「謝ることなんかないよ」


ついに零れた涙を拭って、タクトはぎゅうと抱き締めてくれた。突然島にやって来たタクトが突然いなくなる夢を見て、それが怖くて眠れなくなった、なんて言ったらタクトはどんな顔をするのだろう。なんて言うかな。こんなにもあなたに依存している私でも、あなたは受けとめてくれるだろうか。

朝日が昇ったらもっと頑張って強がるから。こんなにも暗い闇の中で不安になってしまう私を、今だけは許して



title:Que sera sera



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