あのこが欲しい



最近の佐藤さんは、なんだか楽しそうだ。お昼休みになるとウキウキしながら教室を出ていく。その時の彼女はまるで周りにお花が飛んでいるようで、とても可愛らしい。でも私はそんな彼女より、以前の強がりな彼女の方が好きだ。小さな体で一人で頑張って、失敗して、また頑張って。そんな佐藤さんは、最近よく先輩の中に混ざるようになった。何があったのかわからない、私は佐藤さんを見ているだけだから。でもきっと彼らが佐藤さんを変えてしまったのだ。一人ぼっちの佐藤さんが、私は好きだったのに。


ついこの間、金髪の先輩が佐藤さんのことを「メリー」と呼んでいたのを聞いた。理由はすぐにわかった。ふわふわした可愛らしい佐藤さんは羊みたいで、あまりにぴったりなそのニックネーム。心の中でそっと「メリー」と呼んでみた。途端にむず痒いような気持ちに襲われて、胸がきゅうんと締め付けられる。でも所詮、彼女は『佐藤さん』。見ているだけの私に許された距離は、ここまで。



ガコン、と落ちてきたカフェオレを取り出す。今日も佐藤さんは先輩たちとご飯かな。なんて、ぼうっと考えながら自販機を後にした。後ろからぱたぱたと近づいてくる足音に気づかなかった私は「あのっ」という声でようやく振り返る。だってこの声は、


(佐藤さん)

「これ、お釣り…忘れてたわよ」
「え、あ、ありがとう…」


佐藤さんは、こくんと頷くと私に背を向けた。少し赤らんだ頬が可愛くて、胸がトクントクンと静かに鼓動する。初めて佐藤さんと言葉を交わした。そんな些細なことでも私にとっては大事件で、気持ちが高揚する。


(…あ、いちごオレ)


手に持っている飲み物ですら彼女らしい。ぱたぱたとさっきと同じ足音をたてて走り去る背中に、こっそり「メリー」と囁いてみる。勿論彼女に届くわけもなく、小さな背中は見えなくなった。手を強く握ると、その中の硬貨がチャリ、と音をたてる。いちごオレを買いに行こうか。




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