メテオライトの屍を抱く


※ゴミクズな阿部



使い古したクッションはもうぺしゃんこに潰れていて、でも手放せずにいた。今はただ、さらさらと流れ出る涙を吸うスポンジのような役割を担っている。激しく泣きじゃくるほどの波は収まって、私はもうすっかり疲れていた。それでも涙は枯れずに、声も出さないままに流れては落ちた。

かちゃりと部屋のドアが開けられたのがわかった。誰が入って来たのか確認せずとも、気配で分かる。私がうつ伏せに倒れるベッドに腰掛けた彼は、優しく、本当に優しく、くしゃりと私の頭を撫でた。やめてよ。そんな風に触らないで。そう思ったけれど、身体は重くて、その手を振り払う気力もわかない。


「なに泣いてんの」
「…………」
「メール返せよ」
「…………」
「おい」


力任せに肩を押されて、仰向けにさせられた。私の上に乗る隆也の、黒く凛々しい目が私の身体を竦ませる。「なあ」低く、宥めるような声色で呼びかけられたら最後、私の心臓はドキドキと鼓動を始め、身震いするほどに身体が熱くなった。


「シュン、に、聞いた」
「なにを」
「シュン、気づいてた。私と隆也のこと。それで、もう諦めろって、言われた」
「………」
「彼女、いるんでしょ」


そう言った途端、またボロボロっと涙が零れた。隆也にのしかかられているせいで、不細工な泣き顔を隠すこともできずに隆也の面前に晒したままでいる。恥ずかしくて、自分が情けなくて、隆也のことが憎くて、逃げ出したかった。でも私には、隆也を突き飛ばすことはどうしてもできないとわかっていた。


「彼女がいるから、何?」


うん、そう言うと思ったよ。


「俺とお前は昔から一緒にいて、ずっと一緒にいて、それはこれからも変わんねーだろ?」


それはね隆也、私が隆也のことが好きじゃなくて、そして私たちがただの幼馴染のままだったらそうしていられたんだよ。

機嫌をとるように、隆也の鼻先が私の鼻先にすり寄ってきた。そしてそのまま優しく唇を塞がれる。離れると同時にぺろりと舐められて、満足そうに隆也の口角が上がるのが見えた。そうして次は、その舌が首へと下りる。隆也の手のひらはいつの間にか私の膨らみを柔らかく掴んでいた。その間、私の涙はずっと流れ続けていた。でも隆也は指や舌を止めることはしなかった。隆也も私も、私の身体と心が本当は喜んでいることをしっかりとわかっているからだった。


「これからも一緒にいるからな」


そう言って隆也が私の中に入ってきたとき、私はすっかり満たされてしまっていた。それが悲しくて、悔しくて涙をたくさん流した。でも同じくらいに嬉しかった。もう、どうしようもないのだ。私は隆也から離れることができない。離れたくない。隆也がいないと生きていくことができない。いっそのこと、乱暴にしてくれれば良いのに。…ううん、それも違う。どんなに乱暴な抱かれ方をしても、私はきっと隆也を嫌いにはなれないんだろう。じゃあもう壊してよ。壊してぐちゃぐちゃにして、もういらないって捨ててよ。私は自分からサヨナラを言うことができないんだから。

シュンは諦めろと私に言った。もう諦めて、隆也と離れろと。私、まだ諦めることができていないのかな。希望や期待なんてそんなもの、もう随分前に捨てたと思ったのに。でも隆也にこうして彼女ができるたびに苦しくなるのは、諦められていないってことなんだろうか。

シュンは、私にひどく同情している様子だった。そしてその目は兄を軽蔑していた。私も、隆也は酷い男だと思う。でもねシュン、隆也だけじゃない。私も一緒なんだ。


「隆也も私も、最低だね」


霞む視界で呟くと、自分が微笑んでいることに気づいた。そんな私の言葉に、隆也は嬉しそうに「一緒だな」と返事をした。


title:シュプレヒコール


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