炭酸水に溶ける夏


夏が、終わる。

渡された缶ジュースを手に、2人でベンチに座る。もう今までの暑さはなくて、日に当たっても頭がくらくらすることはない。五月蠅くて煩わしかった蝉の声も、聞こえなくなったら寂しいと気づいた。残された夏は少なかった。目の前に広がる青々とした木々と冷たい缶ジュースだけが、夏を連想させた。


「なにお前、飲まねーの」
「飲む」


泉を見ると、喉を上下に動かしてジュースを飲んでいた。夏が、泉の中に取り込まれていく。私の手の中の缶ジュースは、表面に汗を浮かべて蓋が開けられるのを待っていた。ぽたり、ぽたり。アスファルトに染みを作りながら私を待っていた。


「なにぼーっとしてんの。それ好きじゃなかったっけ」
「うん好き」


夏感じてるの、終わるなあって。でもそれは泉には言わない。彼は今年、私にいっぱい夏をくれたから。白球にのせて、夏をいっぱい運んでくれたから。彼が運んでくれた夏は、止まることなく流れていった。缶ジュースの蓋を開けた。ぷしゅ、と音をたてたそれを喉に流し込む。夏ははじけて、そして消えていった。





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