タイムカプセルなんか埋めてない



「…レン、泣くかな」


ぽつりと零された声に、時が止まった。目の前には白くてまるい肩がむき出しになっている。好きだと言って、付き合って、デートをしてキスをして、それで。ようやく迎えた今という瞬間に、なんでレンの、他の男の名前が出るかな。


「な、んで?」


動揺が隠せずに声が震えた。かっこわり。組み伏せた彼女の視線が、ゆるりと動いて俺を捉えた。明らかに緊張で揺れる黒目に衝動がかき立てられて、残りのボタンも早く外してしまいたくなる。


「だって… みんなでずっと、仲良くて… ルリはそんな風に思わないと思うけど、レンは… 動揺するんじゃないかな。わたしたちが、こんなの」
「…なに言ってんだよ」


それでなんでレンが泣くんだよ、考えすぎだっつの。もう子どもじゃねーのに、いつまで姉貴ヅラしてるつもりなんだか。「みんなのおねーちゃん」から、ようやく俺の彼女に、俺だけのモノになったと思ったのに。「おねーちゃん」どころか、ずっと変わらずに子どものままでいる。“仲良し四人組”が壊れるのを恐れてるんだろ。レンと俺なんか、とっくに関係は変わっちまってるのに。


「い、いいのかな。こんなの」
「もう黙って」
「ん、!」


イラッとしたから、そのうるさい口を口で塞いでやる。細い指が俺の腕をぎゅうと掴んだ。ほんっと、イライラする。俺だけ見てればいいのに、こんな時までレンだルリだって、なんなんだ。あー。


「やめた」


俺がごろりと隣に横たわると、えっと小さく言って身体を起こした。「シューゴ?」と覗き込んでくる胸元の、ちらちらと見え隠れする白い下着が眩しくて居心地が悪い。だってこんなの、できねーだろ。普通。


「急ぎすぎた、こういうのはもう少し経ったらにしよ」
「え…」


あーあ早まったかなー。こいつがもう少し、俺のことを男として見るようになるまで、待とう。まだまだ時間はあるのだし、俺は待てる。
そう心に決めた瞬間、「ちがうの」と手を握られた。


「え」
「ちがくて… ごめん、緊張して、わたし…。あのねわたし、シューゴが好きなの!」
「っ!」
「だ、だから、したい」


俺の手を握る指は震えている。かお真っ赤にして、どんだけ必死なんだよ。小さい頃から、泣きそうな時のかおはホント変わんねーな。
思わずふはっと笑うと、その表情は不安げに歪められる。額と額をごちんと合わせて、安心させたくて手を握り返した。


「…じゃーするけどいい?」
「う、うん」
「後悔しない?」
「しないよ!」
「まだレンのこと気になる?」
「ううん… 好きなのは、シューゴだから」


したい、なんて言われたら理性なんて持ってられない。「シューゴ、好き」と呟く声に、俺も好きと返してまたキスをした。そして残りのボタンに手を掛ける。もうただの幼馴染も可愛い弟分も、やめだ。




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