プカプカプカ



合わせていた唇を離したら、泉は顔をしかめた。


「ちょっとあんたどういうこと」
「煙草吸いましたよね…」
「あ、バレた?」


んはは、と笑うと、泉はべえっと舌を出した。その湿った赤色は健康で美味しそうな色をしている。健康なのは良いことだ。健やかなイヤらしさがある。それに対して、ヘビースモーカーのあたしの口の中はきっとくすんでいる。

ん、と泉が顔を近づけてきたので、またキスをした。泉の赤い舌があたしの苦いそれを撫でる。音を立てて唇を離した彼のポーカーフェイスには、出会った頃の可愛らしい初々しさなんて微塵もなくなってしまっていた。


「嫌なんじゃなかったの?」
「したそーな顔してたんで」


まったく可愛げがなくなった。オネーサンかなしいんだけど。開け放した窓辺に座り込んで夜空を見上げる。気持ちのいい夜風が流れ込んでくる。隣で泉がビールの缶をぷしっと開けた。


「スポーツ少年がそんなもの飲むんじゃないよ」
「どの口が言うんスか」


うん、まぁ最初は嫌がる顔が見たくて無理やり飲ませたんだよね。あたしが。当の本人は普通にぐいぐい飲むからつまんなかったよ。
泉が頭に被ったタオルは、あたしのお気に入りのものだ。赤と緑の、苺みたいなボーダー。その下の黒髪はまだ濡れていて、艶と光っている。泉は綺麗だ。


「んな見てもやんねーすよ。自分で取りに行ってください」
「いやそれあたしのだからね!」


あっこいつ鼻で笑った。憎たらしい。新しく咥えた煙草に火をつけて一息吸い込み、泉の方に向かって吐き出してやる。「ちょ!」ばばっ、と顔の前で手を動かす泉は可愛らしくて笑った。


「そんなことしても意味ないよん」
「やめてくださいよ!臭いつくっしょ!」
「いーじゃん。つけて帰ってよ」
「ヤっすよ。…思い出すから」


きゅーん。
ちょ、きゅーんってした。いま。


「泉…かわ」
「あーあーあー聞かないから」
「かわ、」
「あーーーーーーー」


両耳を押さえて嫌がる泉は、可愛いって言われるのが嫌いな、カッコつけたいお年頃の男の子で。素直で清潔なのだ。副流煙をめいっぱい吸い込んでいても。

お年頃な泉の口に舌をねじ込むと、生意気にもウワテに出ようとしてきた。思わずどきりとしてしまう。不覚。背中にまわされた腕が、肩を掴んで引き寄せる。ベランダの床に煙草の灰が落ちるのが気がかりだった。ら、泉があたしの指から抜き取ってキスをしたままで揉み消した。まったく誰がこんな男にしてしまったんだか。



ーーーーー

タイトルは名曲のアレから



[ 8/29 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -