触れられる



指先が優しくうなじを滑って、肌がゾクゾクと粟立つのがわかった。思わずぎゅうと目を瞑る。閉ざした視界の中で、栄口くんが微笑んだのが気配で分かった。なんで、こんなことに。放課後の教室で、いつも通り二人で、他愛もない話をしていたのはつい二分前のことだった。


「…ごめんね」


不意に栄口くんのことばが降ってきて、はっと目を開く。さ、栄口くん、なんですかそのカオは。見たこともない彼の表情にどくりと心臓が動いた。なんというか、その…えろい。色っぽい。栄口くんの指先は頬へと移動してきて、そっと添えられた。


「我慢できなかった」


優しい手つきで頬を撫でられて、髪を耳にかけられる。男の子にこんな風に触れられたのは初めてで、体温がぐんと上がる。でもそれよりも栄口くんの指は熱いような気がした。いつもとは明らかに違う空気に緊張してなにも言えなくて、わたしは栄口くんを見上げることしかできない。身体は椅子に縫いつけられたように強張っていて、ただただ、栄口くんにされるがままになっている。


「…きみが、あんまり可愛いからどうしようって思って」


ぽつりぽつり、栄口くんの言葉が降ってくる。その指が、頬からくちびるを撫でる。なんだか、栄口くんが舌なめずりしているような、そんな仕草だと思った。


「可愛い」


思わず唇を堅く閉ざすと、栄口くんが吐息のように囁いた。その湿った声が、わたしの唇を濡らす。こんな至近距離で喋られたら、こまるよ、


「他のヤツに、やらしー目で見られてたらどうしようって……耐えられなかった」


心臓がうるさい。わたしの意識は今にも逃げ出しそうなのに、熱っぽい目で射抜かれて、身体は動かない。名前を、呼びたいのだけど。


「やらしー目で見てごめんね」


照れたように、困ったように笑った栄口くんは、一度つよく、押し当てるだけのキスをして、また笑った。ああ捕まってしまった、と思った。




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