置いてけぼり
「りゅーねん!りゅーねん!」
「うるさい」
「留年するって約束した!」
「してないよふざけんな」
センパイの嘘つき!イジワルー!と喚き散らしているこのデカくて頭のちょっと弱い後輩がさっきからウザい。卒業証書の入った丸い筒でそのふわふわ頭(見た目も中身も)をぽかんと叩いてやると、涙を滲ませた目でじとっと睨んできた。
「ちょっとそんな目で見ないでよ、私が悪いみたいじゃない」
「…センパイが悪い」
「受験勉強がんばったセンパイに対して他に言うことあるんじゃないの?」
私の言葉に、利央は少し考えてから「センパイは頭悪いなりにがんばったとおもう、」と言った。殴った。
「いってー!」
「もう私帰るからね。またね」
まぁ、その「また」がいつになるかわかんないんだけどね。でも、馬鹿でウザいけど可愛い後輩の顔を見に来てやらんでもない。そのうち。
利央に背を向けて歩き出すと、ぐいっと腕を引っ張られた。
「! なに」
「…センパイも準サンも、みんな、おれのこと置いてくんだ」
ぶーたれる利央はまるで子供である。こんなでっかい子供がいてたまるかというハナシだが。しかしながら私の未成熟な母性本能をくすぐるには充分な素材であった。ちくしょう。
「やだやだ置いてかないで」
「連絡いっぱいするから…」
「いやだ!学校来て!」
「りおー…」
「じゃあおれと付き合って!」
思わずきょとんとしてしまうと、そこには真っ赤な利央のかお。可愛いなぁこいつは。「いいよ」って返事をしたら「やっぱり卒業しないで!」ってまだ言うから殴った。
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