ラストタイムオブサマー



わりーんだけど、ちょっと寝させて

そう孝介が倒れ込んだベッドに一緒に横になったのは、だいたい2時間前。もう4時、かあ…。体を捻って隣を見れば孝介はまだ眠っていて、長い睫毛がはっきりとわかった。部屋の中は孝介の寝息とクーラーの音で満ちている。この静けさが、心地いい。


(…可愛いなあ)


孝介の寝顔を見て、改めて思った。こんなことを本人に言えばきっとムスっとするんだろう。そんなとこも可愛いのを、孝介は自覚していない。

…それにしても、随分ぐっすりと眠ってるなあ。今日は部活が午前で終わるからと、私に時間をくれた孝介。日頃の疲れも溜まっているんだろうな、ゆっくり寝させてあげよう。そう思い、再び孝介に背中を預けた。孝介に抱え込まれているような体制のせいでうまく身動きがとれない(つまり抱き枕状態である)まあいいや、私もまた寝ちゃおう。ぱたと瞼を閉じた瞬間、ぎゅうと強まる孝介の腕。


「わっ…、起きたの?」
「んー……」
「私が起こしちゃった?ごめんね」
「んーん」


背中に孝介の額がぐりぐりと押し付けられる感触。うわわ、孝介が甘えてる…!ちょっぴり感動して、思わず笑みがこぼれた。


「孝介疲れてるんでしょ、もっと寝ててもいーよ」
「…んー、」


さっきから唸るような声しか出さない孝介。もう、可愛いなあ。じゃあ寝よう?と声をかけて再び瞼を閉じる。またいいぐらいに、眠気を感じてきた。…そんな心地よいまどろみの中、顎の下をゆるゆると撫でる指の感触が。それにまた、ぱちりと目を開けた。


「…孝介ぇ?なにしてるの?」
「………」


返事はなく、ただ緩慢な動きを続ける孝介の指。しばらくそうされていると、ゆっくりと瞼が落ちてきた。ああ、なんか、きもちいー……


「…おい、」
「んうー?」
「…ふは、猫かよおまえ」


孝介の微かな息が耳をくすぐって、声が頭を痺れさせた。からだがふわふわ、する。猫かよって、孝介が先に猫にするみたいなことしたんじゃんー…。そう呟けば、はいはいと笑いながらぎゅうと抱きしめてくる孝介。


「もう目ぇ覚めたの?」
「うん」
「寝ててもいいのにー」
「なに、寝ててほしいの?」
「だって寝てる孝介可愛いんだもん」


あ、しまった。と思ったときにはもう遅く、背後から無言の圧力が。ひいい…こわいよー!背筋がぴんと伸びた瞬間、はむ、と耳たぶを唇で挟まれた。


「ひやあ!」
「…ぶっ、」


なんだその声!と笑い出す孝介。そんなに笑うことないでしょー…。むっとして孝介の腕から逃れようと体をよじらすと、力をぎゅうと込められた。


「ちょっ、と!離してって、」
「いや」
「いやじゃないのー!」


今日の孝介はもう、なんなんだ。仕方なく寝返りをうち顔を向き合わせる(うわ、思ったよりすごく近い)楽しそうに笑顔を浮かべる孝介の鼻をきゅっと摘まんでやると、その手を絡めとられて鼻にひとつ、小さなキスを落とされた。そしてぎゅうと抱きしめられる。突然の甘い雰囲気に、どうしよう、心臓がバクバクする…!


「ね、孝介どうしたの?今日なんか違うよ!?」
「いや、最近あんま会えなかったから、構ってやろうと思って」


今日も寝ちまったしなー、と言う声が、密着した孝介のからだから振動になって伝わってくる。そっか、孝介そんなこと思ってくれてたんだ。熱くなる頬が悔しくて「違うでしょ、孝介が私に構いたいんでしょ」と憎まれ口を叩いてみる。すると「それもあるなー」なんて余裕な口調で返ってきたから、私はますます悔しくなった。ああもう、だいすきだ!



―――――
ただひたすらいちゃいちゃさせたかった。




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