ハニーオレンジ



(ああ、だってもう、どうしようもない)


ただ抱きしめて欲しくて、必死にしがみついた。良郎はいつもと違う私に最初は戸惑っていたけれど、今は何も言わずに私をすっぽりと包んでくれている。私はと言えばそんな彼の胸板に頬を押し付けて、ぎゅうぎゅうと腕の力を込めていた。


「…おーい、どうしたー?」


しばらくそうしていると、良郎は私の髪を掬い上げて指を通すを繰り返しながら尋ねてきた。その優しい動作はいつもなら胸がいっぱいになるくらい満たされるものなのに、今の私にはじれったくて彼の手を掴み自分にぎゅうと押し付ける。びっくりしたように一度動きを止めた良郎、でもすぐに察したのかぎゅううと力を込めて抱きしめてくれた。「ねえ、」そのままぽつりと呟く彼。「…なーに」くぐもって聞こえる私の声。


「顔上げて」
「…やだ」


今の私はこまったさんなの。ごめんね、よしろー。けれど上から聞こえた小さく息を吐く音が、どこまでも続く青空を見たときのそれに似ていたから、あれれって思った。すると良郎は私を抱え込んだまま、ゆうらゆうらと体を揺らし始めた。ゆりかごになった良郎に私はあやされる。まるで赤ちゃんがだんだん泣き止んでいくように、私の手からはゆるゆると力が抜けた。落ち着いた?と緩められる腕の力。うん、ごめんなさい…。ようやく顔をあげた私に、良郎はちゅうと優しく挟むようなキスをした。


言葉じゃわからないことや、言葉じゃ足りないときなんてたくさんあるんだ。だからそんなときは、たくさん気持ちを出せばいい。甘えていいんだよ。


そんなことを言った良郎はおいでと両手を広げた。みるみるうちに視界が歪む私を見て、照れたように笑う。その体にまたすっぽりと包まれた私は、優しいゆりかごの中であたたかい時間を過ごす。愛しさの海の中でわたし、満たされてゆく。




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