出会いは夢の中で



電気を消してベッドに横になると、体がだんだん沈んでゆく。それはベッドの柔らかさがどうとかではなくて、ほんとうに、このまま地球の裏側まで行ってしまいそうなくらい、沈む。でも朝になれば何事もなかったようにわたしは布団に埋もれているのだ。今日も、わたしは夢の世界を堪能する。

ベッドの下の床の下の、そのずっと下の世界は歩くというより跳ねるように動かなくてはいけない。きっと無重力ってこんな感じなのだろう。ポーンポーン、跳ねていると、遠くに人影が見えた。ここで人を見るなんて初めてで、胸がドキドキする。


「あの、っ!」


声をかけても距離のせいか聞こえていないみたい。ポーンポーン、行っちゃう。


「ま、待って!!」


ひときわ大きな声を出したらその人は立ち止まった(良かったあ…)そしてくるりと振り向く。ポーンポーン、急いで近寄ると、くりくりした目の男の子だった。ほっぺのそばかすが可愛い。


「…うわ、びっくりした、初めて人に会った」
「わたしも初めて!あの、お名前は?」


彼はイズミくんといった。イズミくんはいつもは野球をしているらしい。練習に疲れてベッドに倒れ込むようにして眠ると、ここに来てしまうそうだ。ここに来るとなんか疲れがふっ飛ぶんだよなァと、上に浮かぶ星のような光を見上げてイズミくんは言った。

それから朝になるまで二人で沢山話した。もうすぐ朝だね、と言うとイズミくんはまた明日も話そうぜと言ってくれた。やくそく、そう指きりげんまんをしたところでパチンと音がして、目を開ければわたしの部屋の天井が見えた。


「いってきまあす、」


制服に身を包んで家を出る。いつもの登校ルートを歩いていると、シャッという音と共に自転車がわたしを抜かした。前に体重をかけて立ちこぎをする背中に、思わずあっと声が出る。


「待って!!」


キッと急ブレーキをかけ、振り向く。くりくりした目が大きく見開いた。ほっぺのそばかすに朝の光が当たる。マジかよ、転がり出た言葉はわたしの爪先にぶつかってはじけた。




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